多くの人が水辺のレジャーやスポーツの時間を楽しむ一方で、毎年多くの水難事故が発生しています。しかし、近年ではAIの技術が進化し、水難事故の防止に大きな役割を担いつつあります。中央大学の研究開発機構が開発した最新技術は、プールや海辺での安全管理や水難事故を効果的に防ぐ手段として注目を集めました。そこで今回は、水難事故防止のAI活用の現状と、今後のさらなる技術の応用を紹介します。
「溺れそうな人」を自動検知!プールや海での不幸な水難事故を防ぐ、最新AI技術に迫る (※写真はイメージです/PIXTA)

AIが「離岸流」をリアルタイムで検知して早期救助につなげる

 

水難事故を防ぐためにAIが活用されているのはプールだけではありません。こちらも中央大学研究開発機構の石川仁憲機構教授らによって、離岸流が原因による水難事故を予防する技術が開発されています。

 

離岸流とは、岸に打ち寄せた海水が沖へ戻ろうとして発生する強い潮の流れのことです。白波が立っていない一見穏やかで安全そうな場所でも離岸流は発生し、海で溺れる原因の半数近くを離岸流が占めています。

 

離岸流は秒速2m(早歩きくらいの速さ)で流されるため、水泳選手でも流れに逆らって岸に戻ることは困難。そこで、このような危険な状況を把握する「海辺のみまもりシステム」が開発されました。

 

海辺のみまもりシステムでは、カメラが1秒間に3枚ほどの画像を撮影。AIがリアルタイムでこれらのデータを解析し、離岸流の発生を検知します。離岸流を検知し、海水浴客が沖に流されていることがわかると自動でライフセーバーのスマートウォッチに救助を要請。早期の救助救命を可能にしています。

 

同システムの効果は実証済みで、沖に流されて溺れ始めた海水浴客を検知してから、50秒以内に救助を行うことに成功しました。人は溺れ始めてから40~60秒で沈むといわれているので、早期救助のために大きな役割を担うことが期待されます。

 

海辺のみまもりシステムは、千葉県御宿中央(2019年~)、宮崎県青島(2020年~)、福井県若狭和田(2021年~)、神奈川県由比ガ浜(2022年~)などで導入されています。千葉県と宮崎県合わせて、2ヵ月で2,500件以上離岸流の通報があり、水難事故防止に大きな効果を発揮しています。なお、離岸流発生エリアへの人の立ち入り検知の適合率は95.5%を誇っています。

 

福井県若狭和田ビーチでは、4台のカメラで離岸流の発生を検知。ライフセーバーに通報するとともに、離岸流や沖向きの風の発生をSNSやデジタルサイネージを通じて海水浴客にも伝えています。

 

また、海辺のみまもりシステムが設置されているビーチでは、アプリをダウンロードすることで海岸の状況や離岸流、オフショアの発生を知ることが可能です。ライフセーバーだけでなく海水浴客も状況を知ることで、誰もが水難事故防止に関わることができます。

 

※ 岸から海に向かって吹く風のこと

人の「大丈夫だろう」を補うAI

 

慣れ親しんだ場所では、「ここでは水難事故が発生したことがない」「ここは安全な場所だから大丈夫だろう」などの先入観がありますが、AIは客観的な視点で危険を知らせてくれます。実際に千葉県の御宿ビーチでは、過去に離岸流がほとんどないとされる場所でもAIが離岸流を検知したそうです。

 

AI技術による水難事故防止は、監視員やライフセーバーなど人の監視だけでは難しいところまでカバーしてくれる、命を守る手段として重要なものになっています。

 

今後も技術の進化が期待されるAIの活用により、水難事故の発生をさらに減らすための取り組みが進められていくでしょう。

 

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<著者>

吉田康介

フリーライター