多くの人が水辺のレジャーやスポーツの時間を楽しむ一方で、毎年多くの水難事故が発生しています。しかし、近年ではAIの技術が進化し、水難事故の防止に大きな役割を担いつつあります。中央大学の研究開発機構が開発した最新技術は、プールや海辺での安全管理や水難事故を効果的に防ぐ手段として注目を集めました。そこで今回は、水難事故防止のAI活用の現状と、今後のさらなる技術の応用を紹介します。
「溺れそうな人」を自動検知!プールや海での不幸な水難事故を防ぐ、最新AI技術に迫る (※写真はイメージです/PIXTA)

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

人による監視だけでは限界がある

 

水辺での楽しい時間を一瞬にして奪ってしまうのが水難事故です。では、なぜ溺れている人に気付くことが難しいのでしょうか。その理由の1つには、溺水事故の多くは静かに起きるという特徴にあります。

 

溺れている人は、大きな声を出して助けを呼ぶイメージがあると思いますが、多くの事例から、実際は呼吸をするのに精一杯で声をあげる余裕がないことがわかっています。音を立てることなく、無言で沈んでしまうことがほとんどなのです。

 

そのため、「近くにいればすぐに気付ける」「普段の様子と違えばすぐに気付ける」と安易に考えるのは非常に危険です。

 

また、子どもが溺れるケースでは、遊んでいるようにしか見えなかったり、保護者がほかのことに集中していたりしていたことなどが、気付くタイミングが遅れる理由といわれています。

 

ライフセーバーや監視員の目があれば安全かというと、そうとも限りません。人による監視だけで溺れている人を即座に見つけ出すことは、困難を伴います。水難事故を防ぐためには監視員の存在は重要ですが、真上から見ないと溺れていることがわからず、発見が遅れてしまうことも。

 

また、プールの場合、プールサイドから見ると水面が揺れているため、顔がゆがんで見え、監視員からは笑っているように映ることもあるようです。海では1人のライフセーバーが1,000人以上の海水浴客を監視することもあり得るため、溺れている人に気付くことは容易ではありません。

 

水辺でのレジャーを楽しむためには、周囲の状況を注意深く監視し、正しい知識を持ってライフジャケットなどの準備をすることが大切です。そうはいっても、楽しい時間に一瞬も気を緩めずに注意力を保ち続けることは難しいでしょう。

AIによるプールの見守りシステムを開発

 

人による監視だけで水難事故を防ぐことは困難ななか、水難事故の防止や救助に役立つ新たなAI技術が開発されています。

 

溺れる「前」にAIが検知

注目されているのが、中央大学研究開発機構の石川仁憲機構教授などの研究グループが開発した技術。この技術では人が溺れる前の特徴的な動きや、経験豊富なライフセーバーから得たリスクの高い状況などをAIが学習しています。

 

プールに設置されたカメラの映像をAIがリアルタイムで分析し、溺れる可能性がある人を検知すると監視員のスマートウォッチに自動で通知。それによって迅速な救助を実現しました。

 

さらに過去の事故データから学習することで、遊具の下に人が入る、浮き輪がひっくり返るなど、水難事故につながる状況も検知できます。これにより、溺れる事故を未然に防ぐだけでなく、事故が起きる原因を事前に把握して予防策を講じることも可能になります。

 

顔認証とAIで溺れた人を検知する最新監視カメラ

監視カメラメーカーのダイワ通信株式会社と、フィットネスクラブを運営する株式会社エイムは「Face Discovery」を共同で開発。昨年から実証実験を開始しました。

 

プールの入り口に設置した顔認証端末で利用者を識別し、プールエリアに設置された防犯カメラで一定時間顔を認識できない利用者が出現した場合、監視員に通知されるシステムです。ゴーグルや帽子を着用するプール利用者を正確に把握できるようにするなど、水難事故を防止するための改善が進められています。

 

現在は室内プールから実証実験が始められていますが、今後は学校や公共の屋外プールにも広まることが期待されます。これらのシステムが監視員の補助的役割を担ってくれることで、プールの安全性が向上していくのではないでしょうか。