定年後の働き方の選択肢は限られています。企業の取締役など「組織で位を極めた人」であれば、取引先企業に厚遇で迎え入れられたり、業界団体の公職に就くなど、引く手数多(あまた)かもしれません。ただ、そういう人はごく少数です。では、普通の人には長年働いてきたプライドを保てるような働き方はないのでしょうか。「社外顧問=定年顧問)」は、その1つ。本記事では『楽しさと生きがいを手に入れる 定年顧問』(自由国民社)から、著者の岩﨑 和郎氏が、その知られざる世界をご紹介します。
顧問という仕事は「雲の上の存在」ではない
私は、今現在、顧問として働いています。ここで、私自身の紹介を兼ねて、顧問としてどのような働き方をしているかをご説明したいと思います。私は工学系大学院で無機工業化学を学び、大手セメント会社に入社しました。
セメントの品質管理とセラミックスの開発研究に携わったのち、この専門性を活かして転職をし、鉱業系の会社を定年退職するまでに4社の社歴がありました。社会人としてのキャリアを通じて、セメントに関する技術職として働いたことになります。
そして、今現在は、建築・土木構造物の検査・調査を行う会社で、技術顧問として働いています。当初、研究開発本部長のポストを打診されたのですが、他社で顧問業務を行っていたため、常勤ではなく、顧問として採用されることになりました。
この会社で顧問を始めたのは2022年6月から。現在は、毎週月曜日の1時から2時半まで出勤しています。私の役割は、技術的なアドバイスをすることです。少し専門的な話になりますが、この会社ではコンクリートの中性化を非破壊で測る技術を開発することを長年の懸案にしていました。
それが可能になれば、事業領域が広がることになります。しかし、その分野での知識やノウハウはあまりありません。そこで、私の持つ知識と、長年の経験が求められたわけです。
最初の2〜3ヶ月は基本をチームのメンバーにレクチャーすることが中心でした。話を進める中で、中性化とは少し違いますが、ある研究機関で塩化物イオンを測定する方法を開発しており、それを応用して中性化も測定できるのではないか、というアイデアが出てきました。
そこで、その研究所と共同研究をしてはどうか、と私が提案をして、それが実際に進み始めたという段階まできました。このように説明すると、私が過去の蓄積である知識を提供しているように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
技術は常に進歩していますから、週1回のミーティングでは、最新の測定法にはどのようなものがあるか、ゼネコンではどのような検査を取り入れているか、関連学会ではどんな論文が発表されているかなど、最新の情報を私の方で収集して、共有したりもしています。
つまり、インプットが欠かせない、ということです。出勤するのは週1回、1時間半だけですが、そのための下調べなどに半日から1日はかけています。関係書籍や資料が揃っている国会図書館は、頻繁に利用しています。
いかがでしょうか。「顧問」という仕事のイメージが、少しでも伝わったでしょうか。顧問というのは、手の届かない雲の上の人にしかなれないもの、具体的には、士業と呼ばれる人や、会社の役職経験者が離職後に勤めるもの、というイメージがあるかもしれません。
しかし決してそれだけではなく、私のように専門性と経験を活かして事業に貢献する役割もあるのです。私がお伝えしたいのは、こうした社外顧問です。名誉職ではなく、実務についてアドバイスする技能職といえるでしょう。
そして、経験と知識、人脈のある定年世代であれば、専門性と経験を活かして働けるので、私は「定年顧問」と呼んでいます。定年後には第6の選択肢として、この「定年顧問(=社外顧問)」の道があることを知っておいてほしいと思います。
岩﨑 和郎
アドバイザー・技術顧問
※本記事は『楽しさと生きがいを手に入れる 定年顧問』(自由国民社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。