年々増加する日本の医療費。2022年には「過去最高額」を更新しました。しかも、少子高齢化による人手不足もあり、医療費は今後も増加すると予想されています。そのようななか、国は「国民皆保険制度」をいつまで維持できるのか……『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の奥真也氏が、日本の現状と将来について、医師の視点から分析します。
「致死的な病気」と「非致死的な病気」の線引き
「致死的な病気」として想定されるのは、たとえば心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、がん、結核などです。逆に「非致死的な病気」として考えられるのは花粉症、皮膚炎、虫歯、骨折、軽度の心不全や狭心症などです。保険適用から外される未来もないわけではありません。
国は保険適用される病気が減らないよう努力を続けてはいますが、いつかは減らさなければ国家財政が立ち行かなくなるのではと思います。そのとき、非致死的な病気を治療するのは自己負担になります。
非致死的な病気の治療が自己負担になった未来では、致死的な病気の治療は侵襲性(身体に傷害を与える可能性)や予後(病気の経過についての医学的な見通し、あるいは余命)のよしあしによってランク付けされるでしょう。
経済力が長生きの質を左右する!?日本人を待ち受ける“ディストピア”
ランクの高いほうから「特上」「並」と2種類あった場合、お金のある人は「特上」を選べますが、そうでない人は「並」にせざるをえません。「特上」の人は身体的負担の軽い最新の手術を受けることができて、入院日数は少なく、退院後の回復も早く、いち早く日常生活に戻れます。
一方、「並」の人は従来と同じで、退院までにある程度の時間を要する開腹手術になります。身体的負担が大きいためリハビリもしなければならず、退院後の回復にも「特上」より時間がかかります。
「特上」の人も「並」の人も、手術は受けて永らえることに変わりはありません。しかし、その後の生活の質に差が出てしまいます。このように、個人の資産の有無が長生きの質を左右する未来がやってきてしまうかもしれません。
奥 真也
医療未来学者/医師・医学博士