相続発生後、親のそばにいる子どもが、親の資産を使い込んでいることが明らかに…。このような事例は枚挙にいとまがないと、司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏はいいます。具体的な事例をもとに留意すべき点をみていきます。
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お金の使い込み、親族の場合は刑法では裁けない
このように、親と同居しているきょうだいが親のお金を使い込み、遺産相続時に発覚するという事件は少なくありません。ほとんどの場合、使い込みを認めない、証拠がないなどの理由から、なかなか解決の緒が見つからず、泥沼論争となってしまう場合が多いのです。
親が亡くなる前に資産の状況を確認しておけば、このようなトラブルは避けられますが、まさかの事態を予測するのは難しく、しばしば「あとの祭り」となってしまいます。
使い込みは、お金を勝手に引き出し、自分のために使ったという流れが認められる場合、窃盗罪・横領罪が成立します。
しかし、親子間の場合は、刑法244条1項によって配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗などの罪又はその未遂罪を犯した者については、刑を免除し、または親告罪として取り扱うとすると規定されています。したがって、原則は刑法で裁かれないため、和子さんは、優子さんの使い込みを自分で証明し、民法によって争わなければなりません。民法上の責任追及には、以下の2つが挙げられます。
②不当利得返還請求権
これらの民法上の根拠条文は以下のとおりです。
民法第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
しかし、本当に使い込まれたのかを証明するのは非常に困難だと言えます。金融機関に照会をかけたとしても、引き出して親に渡した、親の物を買ってあまりは手間賃としてもらったなど、いくらでも言い逃れはできてしまいます。では、どのような点を立証できれば使い込みが認められるのでしょうか?
それには、以下の点が挙げられます。
①預金を引き出した事実
②親の承諾がないこと
③引き出したお金を使い込んだ事実
しかし実際問題として、上記を立証するのは非常に困難です。
では、このような事態を防ぐには、どうしたらいいのでしょうか?
それは「親が亡くなる前に通帳の残高を確認しておく」ことです。和子さんの場合なら、優子さんが預かっているとしても、定期的に、通帳の残高と出費の目的を書いたものや領収書を確認するなど、きょうだいであっても、お金に関する管理は、証拠が残るように確実にしておくことが重要です。
親が生きているうちに使い込みが発覚した場合は、親が当事者となるので、問題を解決するのは、相続人が立証するよりも簡単になります。
また、すでに亡くなってしまったあとであれば、遺産相続分割前に解決するべきです。遺産分割調停であれば、裁判よりも簡易に争いを解決できるので、調停委員の第三者的立場から争いを解決するサポートをしてもらいましょう。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士