平成のドラマを見ているとしばしば描かれるのが“すれ違い”。コラムニストの小林久乃さんによると、平成ドラマには、SNSもスマホもない時代だからこそ、「繋がらない、すれ違う美しさが平成ドラマには潜んでいる」と言います。普通の昭和生まれにとっては懐かしい、平成生まれにとっては新文化の「平成ドラマ」の数々。小林さんによる著書『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)から一部抜粋し、平成ドラマの魅力や楽しみ方をお伝えします。
コロナ禍での再放送で話題になった”すれ違い”ドラマは…
そしてすれ違いに皆が騒然とした作品といえば『愛していると言ってくれ』(1995年・TBS系列)だ。少し流れから離れてしまうのだが、訴えたいすれ違い案件は、2020年のパンデミック中に起きた。皆の記憶にもあると思うが、あのときは一斉にエンタメ制作が止まってしまうことになった。スタートしたばかりの連続ドラマも収録は中止。でも地上波各局が放送を止められるわけがなく、(あくまで予想だけど)苦肉の策として、過去作が放送された。ここにラブストーリーの『愛していると言ってくれ』があった。
榊晃次(豊川悦司)は聴覚障害を持つ画家、恋のお相手は女優の卵である水野紘子(常盤貴子)。超絶色男の彼氏の耳が聞こえないというだけで、すれ違う原因の王手は出たようなもの。バイト生活の紘子には携帯電話も買えず、買ったところでメール機能もない時代だった。そこで会いたい時はひたすら相手の帰りをお互いの家で待つのである。ああ、何たるもどかしさよ!
この再放送に昭和生まれは歓喜したけれど、若手にとっては初めましての作品だ。でも他に見るものがなければ……と見ると、そこに描かれているのは自分たちの知らなかった同世代の若者の日常。面白味に浸る部分もありつつ、彼らにはこんな疑問がわく。
「なんでLINEしないんですかね」
「あの耳が聞こえない人、めちゃくちゃ格好いいけれど誰ですか?」
「自分の家の前で待っているとか、不審者でマジありえない」
これが友人の20代の部下たちによる意見だったそう。繋がらない美しさを彼らはいつか知ってくれるのだろうか。