平成の”港区女子”を描いたドラマでは電話が大活躍


続けて、長引く緊急事態宣言により、わたしたちに巡ってきた再放送は『やまとなでしこ』(2000年・フジテレビ系列)。松嶋菜々子演じる、客室乗務員の神野桜子が玉の輿を目指して、セレブ男たちの間を渡り歩く。桜子は令和でいう、港区女子だ。自分の結婚相手にふさわしいのは将来有望な人徳者だけであると、周囲にも標榜して、ひたすら合コンに参加する。ターゲットが決まったときの決め台詞はこうだ。

「今夜はたった一人の運命の人に巡り会えたような気がする」

ただ巡り会った王子様は金持ちではなく、実家の魚屋を手伝う中原欧助(堤真一)。桜子にとって、本物の愛は見つかるのか…というジリジリを楽しむラブストーリー。

ただ前出の友人部下たちの意見はこうだ。

「アポを取るのに、いきなり電話をするのは、どうなんですかね」

放送当時はガラケー全盛期。何か約束をするのなら、まずは電話をすることが普通だった。ドラマでも桜子は男たちに電話をかけまくっている。そうか、若手には電話で会話をするというセオリーが消えている。一説では社内の電話を取ることができない若手もいるらしい。確かに飲食店へ予約の電話をすると、謙譲語、尊敬語、丁寧語のミックスでアルバイトさんたちに対応されることがある。「声が聞きたい」という愛情ゆえの欲望が、彼らにはない。「顔が見たい」とビデオ通話で直接顔を見る。すれ違うという風景は皆無だ。

一連からドラマと通信機器の関係性は密接であり、特にラブストーリーには事欠かせないツールである。聞けば最近の10~20代にとって、LINEでさえも「おじさん、おばさんたちがやるから合わせているだけ」。ではどうやって連絡を取るのか言えば、InstagramやTikTokのメッセージ機能を使うらしい。わたしもひたすら押しまくっている、LINEのスタンプや絵文字でさえも過去の産物。そんな状況にこれから制作陣が、どこまで対応できるのか。若者とドラマのすれ違いとは、恒久なり。

小林 久乃
作家、ライター