もともとは透明だった「卵白」が、加熱すると白く固まるのはなぜなのか。この仕組みは「高校生物」の知識で説明することができます。伊藤和修氏の著書『大人の教養 面白いほどわかる生物』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。現在の高校生物の教科書に準拠した内容ですので、教養にしては少々詳しすぎる部分もあります。しかし、受験対策をするわけではないので、「これも覚えなきゃ!」というプレッシャーはありません。ややこしいと感じる部分は、サラっと読み飛ばしてしまってOKです。
生物はどんな物質からできているのか?
細胞にはどんな物質が含まれているのでしょう? さすがに、一番多く含まれている物質が水ということは、直感的にもわかるかと思います。では、水の次に多い物質は?
図表1のグラフからわかるとおり、一般に、水の次に多い物質は動物細胞ではタンパク質、植物細胞では炭水化物です。お肉や魚は「タンパク質」っていうイメージがありますよね。植物細胞には炭水化物であるセルロースを主成分とした細胞壁があったり、細胞内にデンプンなどを蓄えたり…、炭水化物が多いイメージですね!
①水
水はさまざまな物質を溶かすことができます。水に溶けた物質どうしや物質と酵素が出合うことで化学反応が起こるので、「水は化学反応の場としてはたらく」といわれます。また、水は比熱(ひねつ)が大きい(←温度が変わりにくい)ので、細胞の温度を一定に保つ役割も担っています。
②タンパク質
タンパク質は多数のアミノ酸が鎖状に繋がって複雑な立体構造をとっている物質です。酵素、抗体、ホルモンなどの主成分となり、非常に重要なはたらきをしています。タンパク質の構造や性質については、このあと学びます。
③炭水化物
炭水化物は細胞においてエネルギー源としてつかわれます。また、炭水化物の一種であるセルロースは植物細胞の細胞壁の主成分です。だから、植物細胞では炭水化物が多く存在するんですね! 最も単純な炭水化物は単糖で、グルコースやフルクトースなどがあります。単糖が2つ繋がったものが二糖で、スクロースやマルトース、ラクトースなどがあります。単糖が多数繋がったものが多糖で、セルロースやデンプン、グリコーゲンなどがあります。
④核酸
核酸にはDNAとRNAがあり、いずれもヌクレオチドという基本単位が繋がった物質です。
なぜ、卵の白身は「加熱すると白く固まる」のか?タンパク質の特徴とは
タンパク質はアミノ酸という物質が鎖状に繋がった物質です。まず、アミノ酸とは何かを学びましょう!
アミノ酸(図表2)は炭素原子にアミノ基(-NH2)とカルボキシ基(-COOH)、水素原子(H)が結合し、残りの1ヵ所に側鎖(そくさ)という原子団が結合しています(側鎖は-Rと表記します)。自然界にはものすごく多くの種類のアミノ酸がありますが、タンパク質の合成につかわれるアミノ酸は20種類だけなんです!
①タンパク質の一次構造
アミノ酸どうしは、一方のアミノ酸のカルボキシ基と他方のアミノ酸のアミノ基から水分子が取れて結合します。この結合をペプチド結合といいます(図表3)。
多数のアミノ酸がペプチド結合で繋がったものをポリペプチドといいます(図表4)。ポリペプチドにおいて、アミノ酸の繋がっている順番のことを一次構造といいます。
②タンパク質の立体構造
タンパク質をよ~く見ると、ポリペプチドが部分的に規則的な立体構造をとっています。このような部分的に規則的な立体構造を二次構造といいます。主な二次構造にはらせん状のαヘリックス構造、ジグザグシート状のβシート構造があります。
二次構造をもつポリペプチドがさらに折りたたまれて、複雑な立体構造をとります。この分子全体の立体構造を三次構造といいます(図表5)。
そして…、タンパク質には複数本のポリペプチドが組み合わさったものがあり、このような構造を四次構造といいます。四次構造をとるタンパク質としては、ヘモグロビン、コラーゲン、抗体などがありますよ。
③タンパク質の変性と失活
タンパク質は分子全体として非常に複雑な立体構造をとります。そして、立体構造が正しくつくれなかったり、立体構造が壊れてしまったりすると、タンパク質ははたらけなくなります。
通常、60℃を超える温度になるとタンパク質は立体構造が変化して(←これを変性〔へんせい〕という)、はたらきを失います(←これを失活〔しっかつ〕という)。卵白を加熱すると白く固まるのも、タンパク質の変性ですよ。
また、極端なpHの変化に対してもタンパク質は変性してしまいます。
④シャペロン
タンパク質の立体構造をつくるのは大変! 放っておいてもなかなかうまくはつくれません。じつは、シャペロンというタンパク質が立体構造をつくるのを補助していて、このお陰できちんとした立体構造をつくれるんです。シャペロンは補助以外にも変性したタンパク質をもとの正しい立体構造に戻すはたらきもしていて、とっても大事なタンパク質なんです!
伊藤 和修(いとう・ひとむ)
駿台予備学校 生物科専任講師
京都大学農学部卒(専門は植物遺伝学)。派手な服を身にまとい、ノリノリで行われる授業では、“「わかりやすさ」と「おもしろさ」の両立”をモットーに、体系的な板書と丁寧な説明に加え、小道具(ときに大道具)を用いて視覚的なインパクトも追求。
著書は『大学入学共通テスト 生物の点数が面白いほどとれる本』『大学入学共通テスト 生物基礎の点数が面白いほどとれる本』『大学入試 ゼロからはじめる 生物計算問題の解き方』『直前30日で9割とれる 伊藤和修の 共通テスト生物基礎』(以上、KADOKAWA)、『生物の良問問題集[生物基礎・生物] 新装版』(旺文社)など多数。