ゴリラ、チンパンジー、オランウータン…。これら「類人猿」のなかで最もヒトと近いのは、チンパンジーと言われています。チンパンジーとヒトは、いかにして分かれていったのか。伊藤和修氏の著書『大人の教養 面白いほどわかる生物』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、生物学的な違いから「ヒトの進化」を見ていきましょう。現在の高校生物の教科書に準拠した内容ですので、教養にしては少々詳しすぎる部分もありますが、ややこしいと感じる部分はサラっと読み飛ばしてしまってOKです。
<前回記事>
食べていないのに〈血糖値が上がる〉のはなぜ?最近の高校生が学んでいる「血糖濃度が上がる仕組み・下がる仕組み」【大人の教養】
霊長類(サルのなかま)の出現
~樹上生活を始めたことで「爪の形」と「目の位置」が変化
ヒトの進化の前半は「霊長類(れいちょうるい)の出現」です!
霊長類(←サルのなかま)の祖先は、哺乳類のなかの食虫類(しょくちゅうるい)のようなグループと考えられています。新生代になると、このグループが樹上生活を始め、樹上生活に適応していったんです。
まずは指です! 霊長類の指は、拇指対向性(ぼしたいこうせい)といって親指と他の4本の指が向かい合っているので、木の枝などをつかみやすくなっています。また、爪が平爪(ひらづめ)になっています。図表1のツパイの手(←原始食虫類に似ている)のようなかぎ爪(づめ)ではちゃんと枝を握れませんね。
もう1つは眼です!(図表2) 霊長類の眼は顔の前面にあります。すると、両眼で見れて立体視できる範囲が広くなります。これで「隣の枝にジャンプ!」とかがしやすくなりますよね。また、霊長類は嗅覚よりも視覚に依存するように進化しました。
新第三紀の初期に、霊長類から類人猿(るいじんえん)が現れました! 現生の類人猿のなかにはゴリラのように地上生活をするものもいますね。
類人猿からヒトへの進化
~「直立二足歩行」に適した姿かたちへ変化
ヒトの進化の後半は「類人猿からヒトへの進化」です!
この進化の過程で何が起きたのかというと…、直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)です。直立二足歩行を行う点がヒトの特徴です。最古の人類の化石はアフリカの約700万年前の地層から発見されています。さらに、約420万~150万年前の地層からはアウストラロピテクスの化石が多数発見されています。これら初期の人類は猿人(えんじん)といわれています。
チンパンジー、アウストラロピテクス、ホモ・サピエンス(現代人)の頭骨を比較した図表3と全身骨格を比較した図表4を見てみましょう!
頭骨を比較したら何がわかるでしょう?
大後頭孔(だいこうとうこう)の説明からしましょう。頭骨には何か所も孔(あな)があり、大後頭孔は脊椎(せきつい。背骨のこと)が繋がっている位置の孔です。つまり、この孔には中枢神経が通っています。直立二足歩行をするには、頭骨の真下の位置で頭を支えないとシンドイですよね? よって、ホモ・サピエンスの場合、大後頭孔が頭骨の真下に存在します!
また、進化にともなって眼の上の骨の隆起(眼窩上隆起〔がんかじょうりゅうき〕)が小さくなっています。さらに、ホモ・サピエンスでは、顎の先端がとがっていますね?(図表3) このとがった部分はおとがいといいます。おとがいは類人猿や猿人の顎にはありませんね。
全身の骨格を見てみましょう!
正解です! 人類は直立二足歩行することで腕(=前あし)を移動のために使わなくなりました。その結果、腕がコンパクトになりさまざまな作業に用いることができ、脳の発達に繋がったんです! 調子がいいですね、ほかにはどんな違いがあるでしょう?
OK! 人類の脊椎はS字状に湾曲していて、直立二足歩行の衝撃を和らげてくれています。また、人類のあしには土踏まずがあります。これも直立二足歩行の衝撃を和らげてくれるんです。
また、図表4ではわからないですが、類人猿からホモ・サピエンスへの進化の過程で骨盤(こつばん)が横に広くなっていくんです。これで、直立した姿勢で内臓を支えられるようになったんです!
このような変化にともない、大脳がドンドン発達していったと考えられています。
ホモ・サピエンスの出現と拡散
~約20万年前、「現生人類の直系祖先」が誕生
アフリカで出現した人類が、どのように世界に広がっていったのかを学びましょう。
約250万年前になると、猿人のなかからホモ・エレクトスなどの原人(げんじん)が現れました。
原人の化石はアフリカだけでなくアジアやヨーロッパでも発見されていますので、人類がついにアフリカ大陸から出たということですね。原人は形の整った石器を使い、火を使用していた証拠もあります。脳容積は約1000mLでした。猿人の脳容積はゴリラとほぼ同じで約500mLですので、脳容積が一気に大きくなったんです!
約80万年前には脳容積がさらに大きな旧人(きゅうじん)が現れました。そして、約30万年前の中近東からヨーロッパにネアンデルタール人という旧人が広がりました。ネアンデルタール人は骨格が頑丈で、脳容積も大きく、ある程度の文化もあったようですが、寒冷化などの要因で約3万年前に絶滅しました。
そして、約30万年前、いよいよホモ・サピエンスが出現!
ミトコンドリアのDNAなどの解析から、ホモ・サピエンスのなかでも、われわれ現生人類の直系の祖先は、約20万年前のアフリカで誕生したと考えられています。そして、その一部が約10万年前から世界各地に広がっていきました。
かつては数種類の人類が生息していたようですが、現在の人類はホモ・サピエンス1種のみとなっています。参考までに、ホモ・サピエンスが世界に拡散していったようすを見てみましょう(図表5)。
類人猿とヒトの関係を示した系統樹ものせておきます!(図表6)
伊藤 和修(いとう・ひとむ)
駿台予備学校 生物科専任講師
京都大学農学部卒(専門は植物遺伝学)。派手な服を身にまとい、ノリノリで行われる授業では、“「わかりやすさ」と「おもしろさ」の両立”をモットーに、体系的な板書と丁寧な説明に加え、小道具(ときに大道具)を用いて視覚的なインパクトも追求。
著書は『大学入学共通テスト 生物の点数が面白いほどとれる本』『大学入学共通テスト 生物基礎の点数が面白いほどとれる本』『大学入試 ゼロからはじめる 生物計算問題の解き方』『直前30日で9割とれる 伊藤和修の 共通テスト生物基礎』(以上、KADOKAWA)、『生物の良問問題集[生物基礎・生物] 新装版』(旺文社)など多数。