コーヒーを淹れる際に必須の水ですが、水道水の場合、「硬度の違いがコーヒーの味わいに影響する」と畠山大輝氏はいいます。家庭でも挑戦できるおいしいコーヒーの淹れ方について、畠山氏の著書『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ出版)より、詳しく見ていきましょう。
日本でも硬度を気にした方がいいワケ
よく「軟水」とか「硬水」という言い方をしますが、硬度が低ければ軟水、高ければ硬水で、日本の水は世界的に見ると概ね軟水と位置づけられています。
そのため、これまでコーヒーの抽出に関しては、あまり硬度は注目されてきませんでした。その点、地域によって硬度の違いが大きい海外は、硬度のコントロールに関する知見が日本よりも古くからある印象です。
ただ日本でも、最近は全国から、ときには海外からもインターネットでスペシャルティグレードの焙煎豆を買うケースが増えてきました。そういう豆を入手して淹れるときは、お店がある地域の硬度についても、気をつけておく必要があると思います。
例えば、大阪のお店で焙煎された豆を埼玉で淹れて飲む場合、大阪の水と埼玉の水では、明らかに味の出方が違うはずです。先の私の例とは真逆で、大阪の水より埼玉の水を使って淹れた方が味や甘さ、ビターさが強く出てきます。その味でいいのであれば問題ないですが、もうちょっと穏やかな味にしたければ、大阪に近い硬度の水を使うか、挽き目や湯温、時間などで抽出の調整をすべきです。
地域の水の硬度は、自治体や水道局のホームページで調べることができるほか、公益社団法人「日本水道協会」のサイトの「水道水質データベース」で、全国の浄水場の数年分の詳細な水質データが公開されています。季節や降雨の影響で変わる場合もあるようですが、地域ごとにだいたいの傾向をつかむことができるので、活用してみてください。
市販のミネラルウォーターを活用する
コーヒーを淹れるために水の硬度をコントロールしたい場合、最も手っ取り早い方法は市販のミネラルウォーターを使うことです。
スーパーやコンビニ、インターネットなどで販売されているミネラルウォーターには、軟水から硬水まで幅広い製品がそろっています。硬度が20の地域のお店で焙煎されたコーヒー豆を、硬度が80の地域の人がネット通販で買った場合は、硬度20にできるだけ近い市販のミネラルウォーターを買ってきて、その水で淹れてあげればいいわけです。
逆にヨーロッパなど、硬度が高い国の豆は、硬度が高めの水で淹れてあげるといいでしょう。ただし、あまりに硬度が高すぎると、苦味や重たさが強くなるので注意が必要です。
水の成分を細かくカスタマイズ
さらに細かく水をコントロールしたいなら、マグネシウムやカルシウムを添加する方法もあります。マグネシウムは、ドラッグストアやインターネットで販売されている「硫酸マグネシウム」を使います。「エプソムソルト」という名称で食品添加物扱いになっているものもあります。これをミネラルウォーターで希釈して濃縮液を作り、その濃縮液をコーヒー抽出用の水と混ぜ合わせたものを沸かしてコーヒーを淹れます。カルシウムは、「硫酸カルシウム」(食用石膏)を使って濃縮液を作り、それと水を混ぜ合わせて使います。
そのほか、重曹を添加することで、「炭酸塩硬度」をコントロールする方法もあります。炭酸塩硬度が少なめの水は酸の出方が強く、多めの水は酸の出方が穏やかになります。酸の出方に関しては有効な調整手段として最近注目を集めています。
このようにコーヒー抽出のために水の成分調整をすることを「カスタムウォーター」といいいますが、これは、実際にやってみると、けっこう手間がかかる作業です。細かな計算をしなければならず、扱う粉末が微量なため、精度の高いスケールが必要になります。
そこで活用したいのが「アクアコード」(115ページ参照)のようなカスタムウォーター用のキットです。マグネシウムやカルシウムがコーヒー抽出用に最適化された比率で配合されていて、希釈すべき水の分量もわかりやすく表示されています。
畠山 大輝
Bespoke Coffee Roastersオーナー
コーヒー焙煎士/コーヒー抽出士