ICT関連企業と幅広い分野の民間企業等と協業し、「防災×IT」(BOSAI-TECH)の視点から、防災関連産業の創出を通じて、地域産業の活性化を目指す仙台市。東日本大震災を経験した仙台市では、「BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業」を展開するなど、防災テックに対する関心が高まっています。今回は、過去の大震災時の教訓を生かした防災・減災を実現するテクノロジーについて紹介します。
東日本大震災の教訓から学ぶ!仙台市の挑戦と「防災テック」の進化 (※写真はイメージです/PIXTA)

過去の経験を活かして…進化する防災テック

 

仙台市だけでなく、過去の大規模災害の経験を活かし、さまざまな取り組みがおこなわれています。そのひとつが、高齢者の健康管理ができる防災テックです。


身体が不自由な高齢者は、災害時により多くの支援が必要となります。被災して仮設住宅に暮らす高齢者のなかには、歩行の補助が必要だったり、生活するうえでの補助が必要だったりと、さまざまな支援が必要です。それぞれの高齢者ごとに、医師が支援する範囲を判断し、指導をおこなう必要があっても、時間も人的リソースも限られています。


そこで、株式会社シーイー・フォックスの提供する「FoxSalus」では、通信技術を駆使し、高齢者の生活行動や健康状態、生活環境を可視化。可視化した情報をシーイー・フォックスのシステムで分析し、その結果を病院にいる医師や理学療法士、さらに栄養士や高齢者のライフサポーターなどに配信します。配信された人たちは、分析結果への見解や助言をおこない、分析結果と指導内容を地域の生活支援相談員などに配信することにより、問診を実施することが可能になります。


被災時だけでなく、被災後の健康支援も欠かすことはできません。同事業がさらに発展することで、被災地域における高齢者の健康支援が円滑におこなえるようになることが期待されます。

AIを活用した津波浸水予測と地震予測

 
 
 

東日本大震災以降、リアルタイムな津波浸水予測技術の開発が進展しています。津波の発生から沿岸部へ到着するわずかな時間のなかで、詳細な津波浸水の予測を実現することは、迅速で適切な避難判断をするために重要です。


東日本大震災などの経験を通じて、沿岸および沖合での津波観測が強化され、観測データを活用した高解像度でリアルタイムな津波浸水予測が実現しました。


リアルタイム津波浸水予測では、スパコンなどの大規模な計算資源が必要という課題があります。しかし新しく開発された津波浸水予測手法では、スパコンを活用して多くの津波シナリオを事前に想定し、それに基づく津波シミュレーションを実施しました。


模擬観測データと予測地点での津波浸水波形の関係をAIに学習させたことにより、大地震が発生すると、AIはリアルタイムで得られる実観測データを基に予測点の津波高や到着時刻を含む津波浸水波形を即座に予測することが可能に。学習済みのAIは通常のパソコンでも数秒で実行可能なので、大規模な計算資源が必要という課題をクリアしました。


一万通りの津波シナリオをもとに学習したAIは、東日本大震災の時に得た観測データを入力して予測を検証。仙台平野での評価点において、大きな津波が襲来する34分前に避難判断の助けとなる津波の浸水予測情報を提供できることがわかりました。津波シミュレーションによって生成されたさまざまな津波データを事前にAIに学習させることで、これまでに経験がない未知の津波にも対応し、適切な浸水予測が可能になったのです。


さらに、地震の予測もAIを活用した技術が進んでいます。地震予測は人工衛星を活用して地球の動きを絶え間なく観測し、地表の異常変動を検知することにより可能になりました。地球の地表は毎日、上下左右に1~2センチの変動がありますが、大地震の前には4センチ以上の異常な変動があることに注目。また低周波の電波や電離圏の乱れも大地震の前に確認されています。地震発生の切迫度が高い時に限り、具体的な時期と場所、規模を明記して警告をおこなう「ピンポイント予測」では、的中率が70%を超えています。


地震予測は、電子基準点のGPSデータを収集しデータを分析してきましたが、2020年からは電子基準点のデータにAIを導入。より膨大なデータ分析ができるようになりました。地震の予測研究は、減災のためにもさらなる進化が求められます。


仙台市の「BOSAI-TECH」をはじめ、さまざまなプラットフォームや防災テックが開発されています。地震大国日本で、防災・減災に取り組むのは宿命ともいえます。災害に備えつつ、新たな防災テックの登場に期待したいです。
 

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<著者>
吉田康介
フリーライター