誰もが避けては通れない「相続」。資産を家族に相続もしくは贈与する場合は、さまざまある税制度から最適なものを選択することで、節税対策になります。北井雄大氏の著書『相続はディナーのように “相続ソムリエ”がゼロからやさしく教えてくれる優雅な生前対策の始め方』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
20年以上連れ添った夫婦は〈自宅の贈与〉が2,000万円まで非課税になるお得な制度があるが…安易に使うと損をするワケ【税理士が助言】
「自宅の2,000万円贈与」が有利とは限らない
綾子:そういえば、婚姻期間が長い夫婦には「自宅の2,000万円贈与」という制度があると聞いたことがあるんですが……詳しく教えていただけませんか?
相続ソムリエ:綾子さん、よくご存じですね。おっしゃる通り、20年以上連れ添った夫婦だけが使える、贈与税の配偶者控除があります。これは、婚姻期間20年以上の夫婦であれば、既にある自宅の権利を2,000万円分贈与するか、これから購入する自宅の購入資金2,000万円を贈与しても贈与税が課税されないという制度です。
春樹:なんだか、お得そうだね。
相続ソムリエ:贈与税の配偶者控除を適用した住宅は、その控除を受けた持分までは配偶者のものなので、相続財産から除かれます。よって、贈与税のかからない範囲の贈与であれば有利ですし、贈与をすることで相続税の申告書を提出しなくて済む場合などには手間が省けるでしょう。
夫婦で同居している場合、一般的には夫が亡くなった後、妻は自宅に住み続けます。妻が自宅を取得する場合は、夫婦が居住していただけで小規模宅地に該当するため、自宅の土地の評価には小規模宅地等の特例が利用できます。
たとえば、自宅の土地の評価額が3,000万円で、夫の生前に居住用不動産等を妻に贈与したケースで考えてみましょう。「居住用不動産等の2,000万円贈与」の制度を利用すれば、2,000万円分には贈与税がかかりません。ただし、残りの1,000万円分には贈与税がかかります。
一方、贈与をしなかった場合はどうでしょうか。相続が発生した際に、3,000万円の土地には小規模宅地等の特例が適用できますから、80%(2,400万円)が減額され、相続税評価額は600万円となります。さて、贈与で1,000万円に課税されるのと、相続で600万円に課税されるのと、どちらが有利ですか?
桜:もちろん後者ですよね。
相続ソムリエ:その通りです。さらに、相続の場合は配偶者の税額軽減が利用できますので、相続財産の1億6,000万円までは無税です。このことからも、自宅の土地は相続で受け取ったほうが有利だということがわかるでしょう。
春樹:あまり詳しくないのですが、その際、不動産取得税はかからないんですか?
相続ソムリエ:夫から妻へ贈与すると不動産取得税がかかりますが、相続ではかかりません。ですから自宅の配偶者への贈与はあまりおすすめできないのです。
小百合:なるほど。よさそうな制度だからといって、正しい知識がないまま飛びついちゃダメね。
北井 雄大
税理士