新橋駅と直結…半世紀以上変わらぬ“地下のオアシス”

■新橋│パーラー「キムラヤ」

撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

「新橋駅前ビル」が新橋駅前に竣工したのは昭和41年。今は当たり前の駅ビルがまだ珍しい時代に建てられた。

ビルができるその前は、辺り一帯「狸小路」と呼ばれる呑み屋街だったという。ビルの入り口に狸の銅像が鎮座しているのも、かつてのこの地の呼び名にちなむ。そうして今も下層階には、食事やお酒やお茶を味わえる多様な飲食店がひしめき、新橋で働き集う人たちの拠りどころとして愛されている。

看板メニューの「プリン・ア・ラ・モード」1050円。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
看板メニューの「プリン・ア・ラ・モード」1050円。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

地下1階にある「パーラーキムラヤ」が開店したのは、ビルの竣工と同じ年。コーヒー豆などを扱う食品会社で営業を担当していた和田精輔さんが、仕事を通して出会った店舗のオーナーに飲食店をやらないかと声をかけられ、脱サラをして喫茶店を始めた。

今、店の前には新橋駅と直結する地下通路があるけれど、開店当時そこは壁。数年後に地下改札が完成して扉が作られると、人通りができて常連客も増えていった。

ビルの地下にあるハイヤー会社の運転手が休憩したり、サラリーマンが朝食や昼食を食べにやって来たり。忙しく働く人が束の間店で羽を休める光景が、半世紀以上変わらず続いている。

幾何学模様の壁のパネルと赤茶と白のツートンカラーの椅子が配された明るい店内。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
幾何学模様の壁のパネルと赤茶と白のツートンカラーの椅子が配された明るい店内。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

モダンなデザインに、気分はまるで映画の登場人物

少し前に店を禁煙にしてからは、あまいもの目当ての若い人たちがこぞって訪れるようになった。店先のガラスケースに並ぶ食品サンプルや、昭和の時代から続く喫茶店然とした昔ながらのメニューが、古き良き昭和の時代の象徴として再び脚光を浴びている。

およそ60年前の成人男性の体形に合わせて小ぶりに作られた赤茶とクリーム色のツートンカラーの椅子や、幾何学的な模様の壁の飾りも、モダンなデザインで心が浮き立つ。

私自身この店で過ごすときはいつも、古い映画の登場人物になったような心持ちで、ときめきが絶えない。駅から直通の地下にあることで、雨の日は特に混雑するというけれど、私も気持ちを晴らすためわざわざ雨の日に訪れ、あまいものを頰張ったことがある。

外が見えない地下空間でも、生きているものを見て心が和むようにと、先代が店の中央に設置した水槽と観葉植物を眺めながら。

撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
地下の店舗なので、少しでも自然を感じられるようにと置かれた水槽。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
地下の店舗なので、少しでも自然を感じられるようにと置かれた水槽。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
食品サンプルやレトロな店内は若い世代にも人気。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
食品サンプルやレトロな店内は若い世代にも人気。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋