初演から200年! 2024年は「第九」記念の年


とはいえ、ベートーヴェンは恵まれていたとはとてもいえない、辛い人生を送ったのは確かです。20代後半頃にはすでに耳が聞こえにくくなりはじめ、それを苦にして1802年、32歳の時には遺書をしたため、一時は自殺も考えます。それでもベートーヴェンは病をなんとか乗り越えながら作曲を続けます。40歳頃には耳はまったく聞こえなくなっていたといいます。あの有名な「第九」は、耳の聞こえない状態で完成させた曲なのです。

作曲家としての才能だけでなく不屈の精神で生き続けて作り続けた楽聖のことは、今でも世界中で尊敬され、その楽は演奏され続けています。その最期の大作「第九」がウィーンで初演されてから、2024年がちょうど200年の記念の年となり、世界中でその記念のコンサートが企画されています。

いつも失恋してしまうベートーヴェンを暖めて

さて、そんな稀有(けう)な作曲家ベートーヴェンの作品が、日本の家庭でも流されていることにも注目しなければなりません。なんと石油ファンヒーターにその代表曲が使われているのです。ベートーヴェン作曲の美しいピアノの名曲『エリーゼのために』です。この曲は灯油の残りが少なくなったサインで、「灯油が切れそう、もうすぐ火が消えます」とお知らせしてくれます。

『エリーゼのために』は美しいピアノ曲として大変有名です。演奏技術的にはそれほど難易度は高くないことから、ピアノのレッスン曲として必ず使われる曲でもあります。学校のピアノでこの曲を披露する生徒の姿を見た記憶がある方もいらっしゃるでしょう。

ベートーヴェンはこの楽曲を、恋した女性に贈りました。エリーゼというのが誰を指しているのか現在も確かにはなっていません。ただ、この恋は実らず、ベートーヴェンの片思いは終わってしまうのです。ベートーヴェンはこの曲以外にも恋した女性に送ったものがいくつか残されていますが、残念ながらどの恋も実ることはなく、生涯独身でした。

こうしたベートーヴェンの恋愛不遇な人生を知った上で、ファンヒーターのお知らせ音楽が鳴ったなら、この曲がもっと切実な訴えをしているような気がしてきます。灯油が切れそう、もう残りは少ないんだ、この部屋はもうすぐ寒くなってしまう、早く僕を暖めて。そう悲しげに訴えるベートーヴェンを想像すると、一刻も早く灯油を追加したくなるに違いありません。
 

渋谷 ゆう子

音楽プロデューサー