イメージと強固に結びつく、生活の中の音楽

まず、日本の街中の音楽として挙げられるのは、やっぱり駅のホームの発車メロディです。鉄道各社はそれぞれに趣向を凝らしてこのメロディを選んでいるようです。

JR東日本の山手線ではオリジナル楽曲が使われており、音を聴くだけでどこの駅か思い出せます。また、私鉄各社は駅がある場所にゆかりのある音楽を選んでいることもあります。アニメ『ガンダム』を産んだ制作会社のある駅でオープニングテーマが流されるのはファンの心を熱くします。旅の中でこうした土地との結びつきの強い音楽を使うことによって、その駅の利用者の心に土地と風景、思い出をより強く結びつける役割を果たしています。

旅の思い出では、さらにその音楽が心に残るのではないでしょうか。次の旅ではぜひ駅の発車メロディに注目してみてほしいものです。

それから、日本の学校では、給食の時間や掃除の時間になると、決まった曲を流しているところも多いでしょう。音楽によって児童生徒の注意を促したり、雰囲気を作ったりすることに一役買っています。

筆者が育った香川県の公立小学校では、掃除の時間になるとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)作曲『アイネ・クライネ・ナハトムジークK.525』が流されていました。これを毎日毎日、6年間聴かされたおかげで、いまだにこの楽曲を聴くと掃除をしなければならない気になってしまいます。どんなに素晴らしい演奏家のコンサートであっても、この曲には箒(ほうき)とぞうきんのイメージが浮かんでしまって本当に困っています。音楽を使った“パブロフの犬”効果を刷り込まれたような気がしなくもありません。

それから、夕方になると街中のスピーカーから役所のお知らせと共に、『夕焼け小焼け』のメロディが放送されたりします。他にも『七つの子』の自治体もあるそうです。こうしたノスタルジックで寂しげな放送を聴くと、早く家に帰らなくてはと、自然と出す足の速さが変わってきます。

ひとつひとつ挙げてみると、これほどまでに私たちの日常にはいつも音楽が溢(あふ)れており、生活に浸透しているのだと気づくことでしょう。こうした日常の音楽に、実はクラシック音楽がたくさん使われていることはご存知でしょうか。知らず知らずのうちに、実は偉大な西洋の作曲家の曲をたくさん聴いているのです。

渋谷 ゆう子

音楽プロデューサー