「やらないこと」を決めて、お金と時間と心の余裕をつくる

台湾の大企業の社長を取材したとき、こう言われたことがありました。

「うちの会社は営業部がない。いい商品を作ることだけに専念すれば、世界中から買いに来てくれる。私は会議もしないし、出社も月数回。それでじゅうぶん事足りる」

高齢の社長は、先見の明があり、最先端のIT技術で大富豪になった人。のんびり暮らしているように見えて、つぎつぎと莫大な利益を生み出していく。また、「子孫に財産を残さない」とも決めていて、その理由は「お金を与えては、彼らが自分でお金を生み出す楽しみと喜びを奪ってしまうから」だとか。

社長はものごとの本質を見つめていて「自分のやるべきこと」を徹底的に追求するために、ほかのことは全部、「やらない」と決めているのです。

それに感化され、私も「やらないこと」を決めて、まず自分の仕事だけに専念したところ、ものごとがうまく回り始めました。とくに、心が後ろ向きになる仕事やつき合いはすべて「やらない」。すると、時間と気持ちの余裕ができるので、新しい挑戦や身近な人間関係など、そもそも大切だったことに目が向くようになったのです。

私たちはたくさんこなすことが有効な時間術と思い込み、スケジュール帳に多くのタスクを詰め込みがちですが、時間の使い方の基本は“足し算”ではなく“引き算”。「やること」より「やらないこと」を決めたほうが、自分を生かせます。

「やらないこと」は小さなことでいいのです。「ランチ外食につき合う」「課金してまでゲームをする」「仕事帰りにコンビニに寄る」「新機種のスマホを買う」など経済的にも悪影響なのにルーティン化している習慣があるかもしれません。

やめるのがむずかしいときは、なにか別の行動に置き換えるのも一策です。

時間の“断捨離”もものと同じで、時間とお金のムダをなくすだけでなく、頭をすっきり整理して、自分の価値観を見つめ直すことにつながるのです。


有川 真由美
作家