2024年1月1日に食道がんで亡くなった人気経済評論家の山崎元さん。「余命3カ月」を宣告され闘病中だった山崎さんが、これから社会に出る息子へ、そして読者たちに伝えたかったこととは? 遺作となった『経済評論家の父から息子への手紙』(Gakken)から、ご紹介します。
他人との比較という厄介な問題がある
自己承認感には、他人との比較に陥りやすいという、回避の難しい問題がある。なかなか、「そこそこ」では、安心と満足を同時にもたらしてはくれない。対策は、何らかの比較から意図的に「降りる」ことだ。父は、主として所有不動産の比較から意図的に降りた。
しかし、他人との比較を心の中から完全に排除することは難しい。幸福感には邪魔が入りやすいものなのだ。
「2割増しの自由」を複数組み合わせよ
他人の価値観の影響を受けるからといって、他人に合わせたり、他人の言いなりになったりする必要はない。特に経済的には、「他人と同じ」をむしろ意識的に避けるべきだと考えておくくらいでちょうどいい。
父から息子へのお勧めは、あれこれについて、他人よりも2割増しくらいを目標に自由を拡大してみようとすることだ。働き方、思想、家族関係、時間の使い方、趣味、恋愛、交友関係、など対象は何でもいい。時に他人との軋轢(あつれき)を生むとしても、2割増しくらいなら許してもらえることが多いだろう。
そして、一つひとつは2割増しに過ぎなくても、「2割増し」を複数組み合わせると、あたかも掛け算のように自由の範囲が拡がる。すると、面白い人間ができあがる。
自由の拡大に勇気を持とう。
「自分の嬉しいこと」を言語化せよ
思うに、幸福は、人生の全体を評価・採点して通算成績に対して感じるようなものではなくて、日常の折々に感じるものだ。「振り返ってみて、幸福だった(不幸だった)」という考え方・感じ方には、前向きな意味がない。「サンクコスト」なのだから当然だな。
日常の一日一日、一時一時を大切にしよう。幸福感は「その時に感じるもの」だ。
そして、自分にとって、どのようなことが嬉しくて幸福に感じるのかに気づくといい。できたら、それを言語化しておこう。父は、自分を顧みて、何か新しい「いいこと」を思いついて、これを人に伝えて感心された時に自分が嬉しいことに気がついた。小さな功名心のようなものに過ぎない。ショボいと思うだろうか? しかし、よく考えてみると、仕事のやり甲斐はほぼこれだけのような気がする。そこで、これをキャッチフレーズ的に言語化してみた。
「私のモットーは、(1)正しくて、(2)できれば面白いことを、(3)たくさんの人に伝えることです」。
シンプルで気に入っている。
息子よ。君も、自分が嬉しく感じるのはどのような時なのか、言語化してみよ。上手くできると、ずいぶんスッキリする。