内閣府が2023年3月に発表した「こども・若者の意識と生活に関する調査」によると、40歳~64歳でひきこもり状態にある人は全国に約146万人いると推計されています。2019年の調査では61万人でしたから、コロナの影響もあってか、著しい増加です。今回、48歳Aさんの事例をもとに、日本が抱える「8050問題」の深刻さと解決策をみていきましょう。石川亜希子AFPが解説します。
旧帝大卒の48歳・独身男性、年金暮らしの80歳父から“月5万円の小遣い”もらい…日本が抱える〈8050問題〉の実態【FPが解説】
生活保護は簡単に受けられるわけではない
また、Aさんが言っていた生活保護も、簡単に受けられるわけではありません。
「生活保護」は、生活保護法に基づき収入が国が定める保護基準(最低生活費)に満たない場合に受けられるものですが、保護が受けられるか否かは世帯収入だけで判断されるものではありません。「生活保護を受けなくても暮らせる」と判断されると、申請が通らなくなってしまいます。
Aさんの場合、住まいが持ち家であるほか、病気やけがもなく、アルバイトに行くことができ、趣味も楽しむことができています。生活保護を申請しても、「もっと働ける余裕がありますよね?」と認可されない可能性が高いでしょう。
筆者の話をひととおり聞いていたAさんは、FPに現実を突きつけられ「このままではいけない」と危機感を持ったようです。「あの……、僕はどうすればいいんでしょうか」。
「正社員」にこだわる必要はない…徐々に収入を上げて“独り立ち”へ
Aさんがまずすべきことは、「親の力をなるべく借りず、自分の力で生きていく」という意識改革です。そして、収入を着実に増やし、自立していくことが求められます。
はじめから急いで収入を上げる必要も、“絶対に正社員”などと雇用形態にこだわる必要もありません。
単発のバイトをシフト制の長期アルバイトに変え、まずは親からのお小遣いをもらわずに生活することを目標にするといいでしょう。また、現在はクラウドソーシングなど、自宅にいながらオンラインで仕事を受注できるものもあります。
そうして収入を徐々に増やしていけば、貯金をしたり、家にもいくらかお金を入れたりすることができるようになるはずです。もともと優秀なAさんですから、厚生年金への加入や社員への登用など、きっとその先の明るい未来も見えてくるでしょう。
他方、両親は、不安や悩みを自分たちだけで抱え込まず、「ひきこもり地域支援センター」などといった自治体の窓口に相談するといいでしょう。
また、相続が発生した際にAさんが困らないよう資産の棚卸しを行ったり、ライフプランを家族で共有したり、Aさんが1人でも生活していけるように家事を分担させることなどもおすすめです。
さらに、将来Aさんが1人暮らしになった場合は、実家を売却して単身用のマンションを購入するというプランも考えられます。
簡単ではないかもしれないが…「8050問題」は“第三者への相談”が有効
「8050問題」は、子どもの引きこもりが長期化してしまうことで親がご自身を責めてしまいがちですが、自分たちだけで抱え込んでしまうと、どうしても視野が狭くなります。
先述した自治体の相談窓口や親・ご友人など信頼できるところに相談し、過去を責め過ぎず「いま、ここからできることはなんだろう?」と前向きに考えることから始めましょう。親ももっと自分の人生を生きていいのです。
いつからでも子が自立してリスタートが切れるように、地域も含めて見守っていく社会が望まれます。
石川 亜希子
AFP