2023年、中国自動車業界にとっては2つの意味で、記録的な1年となりました。第一に日本を抜き、輸出台数が世界一となったこと。こちらは日本のメディアでも大きく取り上げられたため、ご存じの人も多いでしょう。しかし、第二の記録はほとんど知られていません。それは中国自動車市場における中国メーカーのシェアが56%と初めて過半数を超えたことです。中国メーカーが販売シェアを伸ばしている背景にあるのが、400万円以上の中高価格帯の電気自動車で採用が進む「スマートコックピット」の人気の高まりです。本稿では、今後日本にも波及する可能性がある車選びの新基準「スマートコックピット」の最新トレンドについて、国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が解説します。
中国発・車選びの新基準「スマートコックピット」…スマホメーカーが続々と自動車業界に参入するワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

“サードプレイス”としての車とは?

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

 

そして3つめに「サービス・エンターテイメント」です。

 

まず、わかりやすいユースケースとして、音楽やゲーム、映画、カラオケなどのコンテンツ消費があります。大画面のディスプレイでコンテンツを楽しめるだけではなく、スピーカーを多数配置してサラウンドオーディオを楽しめるようにしています。

 

そこまで車内を快適にする必要はあるのだろうか……と、ちょっと不思議に感じますが、中国では車内をどれだけ快適な空間にできるかが大きなポイントなのだそうです。

 

こうした議論をする際に、中国自動車業界で使われる用語が「サードプレイス」です。

 

もともとは米国の社会学者、レイ・オルデンバーグ氏が提唱した言葉で、自宅と職場に次ぐ3番目の場所という意味です。大手コーヒーショップチェーンのスターバックスコーヒーが「サードプレイス」を標榜していることをご存じの人も多いでしょう。喫茶店やパブ、商店など地域のコミュニティの核となる社交の場という意味合いなのですが、中国では「自宅でも職場でも、自分だけの空間」というように、少々意味合いが変わっています。

 

将来的に完全自動運転が実現したあかつきには、移動中に仕事や勉強、あるいは映画鑑賞など、時間を自由に使えることが想定されています。しかし、自動運転が実現していない現在であっても、車を快適な自分だけの空間として使いたいというニーズが強いのです。

 

ファーウェイの技術を採用した、セレスグループの最新SUV『AITO M9』は車外の壁に100インチサイズの、後部座席用には32インチの動画を投影できるプロジェクターを装備するなど、エンタメ性能が大充実しています。

 

宣伝ではカップルでドライブにでかけ、暗い駐車場に停車して一緒に映画を楽しむというユースケースが紹介されていました。

 

また、リ・オートの新型車両『L9』は後部座席が高級ソファ並みの座り心地の良さで、しかも大型ディスプレイと冷蔵庫を装備しており、車を映画館化していることを大々的に打ち出しています。

 

エンタメ性能だけではありません。引き出し式のテーブルが用意されていて食事やパソコン作業ができる、愛犬を乗せやすいドッグモード、さまざまな色合いに変えられるLED車内灯、シチュエーションに合わせた香りを車内に流す機能、表情認識によってドライバーの疲労を警告してくれる機能などなど、どうにも使いようがわからない機能からこれは良いかもと思わせる機能まで百花繚乱、日米欧のメーカーではまったく見かけない機能も少なくありません。

 

スマートコックピットを搭載しているのは中高価格帯の車ばかりです。

 

十分にお金があるならば、なにも車の中をそこまで快適にしなくても自宅でくつろいだり、ホテルやカラオケボックスに行ったりすればいいのでは。と、感じそうなものですが、中国に暮らす筆者の友人は「実際にオーナーにならないと分からないだろうけど、結構良いものです」と語っています。

 

中国では車選びの重要なファクターとなっているスマートコックピット。モバイルインターネットとEVの普及で中国が先行していることを考えると、この波は今後、日本や米国など他地域にも広がっていく可能性は十分にありそうです。

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〈著者〉
高口 康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。