※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
スマホの地図アプリにも活用される身近なGPS
カーナビやスマートフォンの地図アプリなどで利用されている「GPS」。衛星測位システム(GNSS)の1つで、アメリカが運用する衛星測位システムです。衛星測位システムには、ほかにも日本の「QZSS」やロシアの「GLONASS」、EUの「Galileo」などがあります。
GPS衛星は、地球の周りを約2万kmの高度でおよそ約12時間周期で周回。また原子時計によって正確な時間を刻んでおり、精度の高い位置情報を特定できます。
衛星測位システムを使用した測位方法には、主に「単独測位」「相対測位」「DGNSS方式」「RTK方式」「ネットワーク型RTK測位」の5種類があり、自動車などのナビゲーションには「単独測位」が使用されています。
「単独測位」をするには1つの受信機と4機以上の衛星が必要となり、受信機は衛星から送られてくる位置情報や信号送信時刻を受け取ります。受け取った情報にもとづいて、衛星から電波が発信されてから受信機到着までの到着時間を計測し、それを距離に変換します。
通常、GPS衛星は3つの衛星機と信号到着時間の差をもとに受信機の位置を決めますが、受信機に搭載されている時計では距離の誤差が生じるという問題が。ここで、4つ目の衛星が重要になります。4つ目の衛星が正確な時刻を提供することで、誤差の修正をおこない、高い精度で位置情報を取得することが可能になりました。
GPSで位置情報を取得することにより、私たちは簡単に目的地まで移動できます。いまではスマートフォンにも搭載されており、世界中どこにいても使うことができます。そのため、生活に欠かせないアイテムになっている方も多いのではないでしょうか。スマートフォンなどのGPS機能の精度は誤差3m程度ですが、測量用の機械では誤差2cm程と高い精度で位置を測ることができます。
しかし、GPSには電波の届かない建物の内部や地下、トンネル内などでは位置情報を把握することができなかったり、障害物の影響を受けやすく、位置情報の精度が低下したりするという課題がありました。また、なりすまし攻撃や時刻情報の改ざんが簡単にできてしまうという危険性もあります。
GPSが使えない環境下でも使える「ミュー粒子」を利用したナビゲーション技術
GPSの課題を解決してくれると注目されているのが、宇宙線「ミュー粒子」を利用したナビゲーション技術です。東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、東京大学生産技術研究所、日本電気株式会社、株式会社テクノランドコーポレーション、カターニア大学、ダラム大学、北京大学と共同で、GPSの電波が届かない地下空間などでも利用可能な新しいナビゲーション技術「muPS」の開発に成功したことを発表しました。
この技術は、宇宙線「ミュー粒子」の高い透過力と物質によらない飛行速度の普遍性を利用しています。宇宙線「ミュー粒子」とは、銀河系における超新星爆発などの高エネルギーイベントで加速した宇宙線と、地球の大気が反応することで生成される素粒子の1つ。地球のあらゆる場所で一様に存在します。
ミュー粒子は透過力が強いため、人工の建物や大きな山などあらゆる物体を光のような速度で貫通し、地下深くにも届きます。この特性を活かした「muPS」は、基準となる地上局と地下受信機の間をミュー粒子が飛行する時間を測定することによって、地上局と地下受信機の間の距離を正確に求めることを可能にしました。ただし、地上局を4ヵ所以上設置する必要があります。
ミュー粒子の速度は、屋内や屋外、そして地上や地下など場所を問わず速度が同じなので、グローバルに「muPS」を実施することができます。この新しい技術により、GPSが利用できない地下空間や構造物の内部などでも、高い精度で位置情報を取得することが可能になりました。