※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
絵画からトレーディングカードまで…さまざまな分野で活躍するAI真贋鑑定
ピーテル・パウル・ルーベンスは、「キリスト降架」や「パリスの審判」など、数々の名画を残した17世紀を代表する画家です。英国の「ナショナル・ギャラリー」には彼が描いたとされる「サムソンとデリラ」が所蔵され、10億円の値がついていました。しかし2021年、AIがこの名画を鑑定したところ「91.78%の確率で本物ではない」と判定されたのです。
今回AI鑑定をおこなったのは、スイスにあるArt Recognition社。これまでにルーベンス作と判明している148作品をスキャンし、AIに学習させました。AIが真贋を判定するポイントは、真作との筆致の特徴の一致です。「サムソンとデリラ」はほかの作品と筆致が一致しないとして本物ではないと判断されましたが、じつはこのAIを使った判定には疑問を呈する声もあります。
ルーベンスは、生涯でおよそ2,000作を残した多作の画家です。彼は工房を作り、弟子や助手との共同作業で作品を制作していました。そのためルーベンス本人が最初から最後まで一貫して描いた作品は少なく、どこかの段階で弟子や助手の手が加わっているものがほとんどです。もし「サムソンとデリラ」の下絵をルーベンスが描き、仕上げを弟子がおこなっていたとしたら…それは贋作といえるのでしょうか?
また、現在問題になっているのが「トレーディングカード」の贋作です。大人気カードゲーム「ポケモンカード」には1枚1億円もの値がつくケースもあるほど、高額で取引されています。ポケモンカードの贋作については、2023年7月に贋作を買取店に売却したとして逮捕者が出ました。
しかしそうとは気づかれず、市場に出回っている偽物も多数存在します。こうした流れを受けて、株式会社コレクテストは「VSS鑑定(ヴァリュースカウターサービス)」を提供。トレーディングカードの真贋鑑定をおこなうと同時に、カードのインターネット上の現在価格を明示してくれます。
VSS鑑定にはAI画像認証が用いられ、AI学習させた大量の画像データを元に客観的な鑑定を可能としています。ただし、すべてをAIのみで真贋鑑定するわけではありません。AIの鑑定に加えて、専門スタッフ3名のチェックを入れることで高精度の鑑定を実現しています。
ファッション業界における真贋鑑定の現在
昔から偽物が多く出回り、本物そっくりの「スーパーコピー」などが流通する高級ブランド品を含むファッション業界では、手軽なAI真贋鑑定サービスが活用されています。「FAKE BUSTERS」の「クイック鑑定」はユーザーが鑑定して欲しい商品をスマホで写真に撮り、送信するだけで48時間以内に鑑定結果が送られてくるというもの。
「クイック鑑定」はAIと鑑定チームによる鑑定を組み合わせ、高い精度を誇るのが特徴です。ただし鑑定証明書は発行してもらえず、鑑定結果についての保証はありません。確実な鑑定と保証を求めるなら、現物を郵送して鑑定してもらう「コンプリート鑑定」を依頼する必要があります。
フリマアプリにもAI真贋鑑定が搭載されているものがあります。スニーカーやストリートファッションに特化したフリマアプリ「UNSTREET」は、出品者の商品画像をAIが5秒で鑑定。あらかじめ学習した正規品のデータと商品画像を照合し、パスしたものだけが出品できます。さらに落札商品には取引が開始される前に、鑑定士による鑑定を実施。AIと鑑定士による2重チェックで、偽物が手元に届くリスクが限りなく少なくなります。
Eコマース業界が急成長するなか、コピー品が多く出回る中国では商品の真贋や権利の保護が問題視されています。高級品を購入する際に鑑定をすることが当たり前になるにつれ、鑑定士が不足する事態に。こうした背景から、AI真贋鑑定技術の開発が急ピッチで進んでいます。
たとえば、「図霊深視(TURING SENSE)」が提供する「図霊鑑定(TURING AI)」は、フリマアプリの「閑魚(Xianyu)」や決済サービス「支付宝(Alipay)」、オークションサイト、高級品専門のEコマースプラットフォームなどさまざまなプラットフォームに実装されているAI鑑定です。「図霊鑑定(TURING AI)」は2億点以上もの画像データを学習し、99%の高い鑑定精度を誇ります。