※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
EVの急激な普及が進む中国…新車販売台数の3分の1を占める「NEV」とは?
中国市場では長年にわたり、日本、ドイツ、米国など海外メーカーがシェアを握り、中国メーカーは太刀打ちできずにいました。中国メーカーの自動車も品質を高めてきましたが、ブランド力やアフターサービスで逆転することは困難でした。
しかし中国メーカーには、中国人好みに特化した車を作れるという点では強みがあります。実際、14年から17年にかけては中国人が好むSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)人気を背景にシェアを高めましたが、海外メーカーがこのトレンドに追随するとシェアは再び下落しました。
それが21年から急激にシェアを伸ばし、23年にはついに中国にとっては“悲願”となる過半数を達成したのです。
その原動力となったのは、EV(電気自動車)の普及です。
中国のNEV(新エネルギー車。電気自動車、プラグインハイブリッド、燃料電池車を総称した中国独自のカテゴリー。外部電源から充電できないハイブリッド車は含まれない)販売台数は前年比37.9%増の949万5,000台に達しました。
中国で販売された新車の31.6%はNEVとなっています。まだまだEVが珍しい日本に住んでいる身としてはこの数字だけでも驚きですが、なんと中国メーカーに限ると新車販売台数の約半分がNEVになっているのです。
EVは充電設備が少ない内陸部や寒さで航続距離が短くなる東北部では売れづらく、大都市や南部で普及が先行しています。現在では、上海市や広東省の街で走っている車はEVばかりという印象です。
なぜこれほど急激に中国でEVが普及したのかというと、政府の補助金や自動車購入税減免といった政府の支援策、充電ステーションの数が多いというインフラ整備、充電料金が安く内燃車と比べると燃費が数分の1になるという運用コストの安さなど、背景には複数の要因があります。
そして、日本ではあまり知られていない話ですが、EVが買われるようになった理由の1つとして、“スマートコックピット”の人気の高まりが挙げられます。
スマホ市場で培った技術をスマートコックピットに応用
スマートコックピットは400万円以上の中高価格帯のEVでの採用が進んでいます。
その機能は「運転支援」「スマート操作」「サービス・エンターテイメント」という3つの要素に分けられます。
「運転支援」はハンドル操作や加速減速、車線変更を車が行うという機能です。運転自動化レベルとしてはレベル2に該当し、運転主体は人間となるため事故などのアクシデントに対応できるよう常にハンドルを握っている必要があります。この運転支援は利用できる地域が限定されています。
まずは高速道路での利用が広がりましたが、昨年からは特定の都市でも利用できるようになりつつあります。通信機器・端末大手ファーウェイ、新興EVメーカーのリ・オートなどの運転支援機能提供メーカーは競い合うようにカバーする都市を増やしています。
続いての「スマート操作」ですが、運転席に設置されたタブレットのタッチ操作や音声認識、あるいはハンドサインによって、エアコンやラジオ、ドアや窓の開け閉めなどの車の操作を可能とする機能です。また、フロントガラスにナビ情報を映し出すAR HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)の採用も増えてきました。
従来の車内設備の操作はボタンやつまみなど物理的なスイッチでしたが、それをスマートフォンと似たようなスタイルに置き換えるというものです。筆者は実際に中国のディーラーを回って、スマートコックピットを採用しているEVに乗ってきましたが、初めて乗る車でも直感的に操作できる点は魅力です。
筆者はよくレンタカーを借りるのですが、そのたびに操作方法がわからずに困っていたため、タッチ操作や音声認識はかなり魅力的に感じました。ディーラーでも、ディスプレイの大きさやどれだけスムーズに動くかといった点を気にしている客を多く目にしました。
「スマート操作」を支えるタッチ操作や音声認識などの技術はスマートフォン市場で発展してきました。中国ではファーウェイやシャオミなどのスマートフォンメーカーが自動車分野に進出していますが、それはスマホ市場で培った技術がスマートコックピットに採用できること、また、スマホでのビデオ通話を自動車のタブレットに移行させるなどのシームレスな連携が重要になることから、携帯端末メーカーの強みを発揮できるためです。
反対に新興EVメーカーのNIOは昨年、スマートフォンを発売しています。自動車メーカーがスマホを開発するのは一見すると不思議ですが、携帯端末とEVの連携を考えれば納得できます。