社員の高齢化や熟練者の引退に加え、生産年齢人口そのものが減少していることから、多くの分野で働き手不足が深刻な状況になっています。建設業界もその影響を顕著に受ける分野の1つです。とくに重たい機材や建築資材を運ぶなどの力仕事や広い現場を定期的に巡回して点検する業務、危険なエリアでの作業が多い職場では、ロボットを活用した業務の省人化と自動化が模索されています。
犬型ロボットや6脚ロボットも登場…作業員の減少・高齢化からインフラを守る「建設テック」の最前線 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

JR西日本は豪腕を持った巨大な汎用ヒト型重機で実証実験

人機一体の汎用ヒト型重機ロボット「零式人機ver.2.0」が鉄道の高所作業を人に代替して作業する例。鉄道の安全とともに、作業員の安全にも貢献する(出典:JR西日本)
人機一体の汎用ヒト型重機ロボット「零式人機ver.2.0」が鉄道の高所作業を人に代替して作業する例。鉄道の安全とともに、作業員の安全にも貢献する(出典:JR西日本)

西日本旅客鉄道(JR西日本)は、自動改札やホームドアなどを提供する日本信号と協力し、株式会社人機一体の汎用ヒト型重機『零式人機ver.2.0』の実用化を進めています。『零式人機ver.2.0』は2つの豪腕を持った巨大ロボットです。鉄道工事用車両と合体させた重機で、遠隔操作によって高所の電気設備の整備や点検作業などを行えます。

 

作業員がカゴに乗って高所にある高圧の電気設備を扱う作業には危険が伴うため、汎用ヒト型重機ロボットが普及すれば、作業内容の改善に貢献できると期待されています。

 

デモをiREX2022で披露したときの「零式人機 ver.2.0 +」(筆者撮影)
デモをiREX2022で披露したときの「零式人機 ver.2.0 +」(筆者撮影)
 

なお、人機一体社はこのほかにも、独自共創モデルの一つである「空間重作業人機社会実装プラットフォーム」を開発し、土木分野および電力分野での高所重作業対応の汎用ロボット重機「空間重作業人機」の社会実装をめざす開発プロジェクトを立ち上げました。23年4月からは、竹中土木や東北電力ネットワーク、日本信号らとの事業連携も進めています。

 

橋梁工事・メンテナンス作業工程の1つである鋼製ブラケットなどの高重量物の取り付け作業のほか、配電線・柱上変圧器などの配電設備の工事では電気が流れている活線状態で作業が行なわれることも多いため、作業員の墜落や感電といった労働災害を防ぐためにも遠隔操作ロボットが有効だと考えられています。

 

カメラやセンサーを搭載した犬型ロボット『SPOT』

このほか、建設現場や工場・プラント、変電所や発電所などで導入が徐々に進められているのが四足歩行の犬型ロボットです。移動できるロボットは車輪型のものが大半ですが、四足歩行は段差や階段があっても自由に動き回れるのが特徴です。あらかじめ複数のルートをAIに学習させ、自動で巡回させることもできます。

 

ロボットアームの役割を果たす首と頭を装着したボストン・ダイナミクス社の『SPOT』(出典:Boston Dynamics、NVIDIA)
ロボットアームの役割を果たす首と頭を装着したボストン・ダイナミクス社の『SPOT』(出典:Boston Dynamics、NVIDIA)
 

たとえば、身体能力の高さで知られるボストン・ダイナミクスの『SPOT』はロボットハンドのような役目を持つ首と頭、高画質の画像認識と解析が可能なカメラ、有害ガスや空気中の成分を測定するセンサーなどを装備できます。

 

ロボットハンド機能は、扉(ドア)の開け閉めやレバーハンドルやバルブ(開閉弁)の操作などが可能です。自律的にドアを開閉して巡回しながら、決められたバルブの開閉を操作したり、遠隔操作でスタッフがレバーの開け閉めしたりできます。

 

また、スタッフは遠隔から『SPOT』に搭載したカメラで、各種計器(センサー)の数値を確認して異常がないか確認したり、AIが数値を判別して異常があったときに通知したりすることもできます。もちろんガスや気体が漏れているのをセンサーで検知した場合にそれを迅速に認識して通知できます。

 

「Trimble X7」を装着した『SPOT』。ニコン・トリンブルも、建築、土木、インフラ、プラントなどの現場で点群計測、進捗モニタリングなどの反復的なタスクを自動化するソリューションを実用化(出典:ニコン・トリンブル)
「Trimble X7」を装着した『SPOT』。ニコン・トリンブルも、建築、土木、インフラ、プラントなどの現場で点群計測、進捗モニタリングなどの反復的なタスクを自動化するソリューションを実用化(出典:ニコン・トリンブル)