映像や画像から顔の特徴を解析して、個人を特定する技術である「顔認証」。デジタル機器の普及でセキュリティ対策を講じる必要性が高まり、オフィスビルや空港における本人確認などで広く使われています。また、昨今は認証システムの進化が目まぐるしく、その技術を応用する分野は広がりを見せています。今回は顔や画像の認証技術を応用して、がんの早期発見につなげたり、顔画像から脳の健康状態を示すBHQを測定したりする、新しい技術やサービスについてみていきます。
がんの早期発見・早期予防にも!進化し続ける「顔認証技術」最前線 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

「顔認証技術」とその「仕組み」

生まれながらにして人間が持っている指紋や眼球の虹彩、声などの身体的な特徴。それらをもとに個人を特定するシステムが、「生体認証システム(バイオメトリクス認証)」です。生体認証は、たとえ双子であっても一人ひとりで固有である身体的特徴を利用することから偽造が困難で、より確実なセキュリティを必要とする場面での本人確認に適しています。

 

そのなかのひとつが「顔認証技術」。カメラで撮影した画像や動画から、目や鼻、口の位置や顔の大きさなどの情報を自動的に取得し、事前に登録した顔データと照合して本人確認をする技術です。なりすましが困難なため安全性が高く、物理的な鍵を持ったり、パスワードを設定したりする必要がないのが特徴です。現在では、多くのスマートフォンにも搭載されており、日常的に使用している人も少なくないでしょう。

顔認証技術の応用で「がん」を見極める

顔認証のシステムが応用されている分野のひとつが医療。代表的なのが、画像認識AIが搭載された内視鏡システムです。主に、胃や大腸のがんの早期発見を目的に行われる内視鏡検査では、内視鏡のカメラによって撮影した画像を、医師が自分の目で見ながら、胃や大腸の表面にがんなどの病変がないかを観察しています。そのため、特に初期の小さな病変などを医師が見逃す可能性があることは否定できません。

 

しかし、画像認識AIが搭載された内視鏡システムであれば、がん病変の特徴を学習したAIが内視鏡で撮影した画像を解析することで、がんの疑いがある病変や領域を高い精度で検出し、たとえ小さな病変であっても見逃しを防ぐことが期待できるのです。

 

このシステムは、2019年に大腸の内視鏡検査で実用化されており、内視鏡検査中の画像をAIがリアルタイムに確認。がんなどが疑われる場所があれば、モニター上に写し出された検査画像の該当箇所にマークを付けると同時に警告音を鳴らして医師に注意を促し、見逃しを防ぎます。その結果、医師はより迅速で正確な診断を行うことが可能です。

 

内視鏡AIは、医師による検査レベルのばらつきを解消することが期待されていて、あるメーカーの開発担当者は、現時点で、内視鏡専門医と同程度のレベルでがんが疑われる領域を発見できる」と話しています。2022年には、大腸に比べて病変の検出が難しいとされる胃や食道を対象にしたシステムも実用化されており、臨床の現場でも使われ始めています。

 

同様に、AI画像認識技術が実用化されているのが、胸部エックス線画像診断(胸部レントゲン検査)です。人の胸の部分は、肺などの臓器や肋骨などの骨、筋肉などが重なって存在していて、エックス線撮影では影が重なり合ってしまうため、特に初期の小さな病変を見逃さないようにするのは、画像診断を専門とする医師であっても簡単なことではありません。

 

AIを用いて胸部エックス線画像から異常や病変を検出する胸部エックス線画像病変検出ソフトウェアは、医師や放射線技師がエックス線画像を解釈する際に、肺炎や結核、肺がん、気胸などが疑わしい部分を、AIが色やマーカーなどで指摘してくれます。肺がんは発見や診断された時点でかなり進行しているケースが少なくありませんが、胸部エックス線画像病変検出ソフトウェアは、早期の異常や疾患の発見を支援することが期待されています。

 

また、乳がんのマンモグラフィ検査に対しても、AIの画像認識を活用した画像診断が欧米では実用化されており、アジア人に対する研究も日本国内で進められています。ほかにも、網膜に対するAI画像診断の研究も進められており、世界中で失明の大きな原因となっている糖尿病網膜症の早期発見、さらには網膜を撮影した眼底写真からは、年齢や性別、喫煙状況、血糖の状態などをAIで推定可能なことが明らかになっています。いずれは眼疾患だけでなく高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、アルツハイマー病、血液疾患など、さまざまな全身疾患の発見ができるようになる可能性があるそうです。