医療分野における顔認証技術のさらなる進化
AIによる顔認証や生体認証の技術の医療分野への応用の研究は、ほかの視点からも行われています。そのひとつが、顔画像から健康情報を取得する研究です。NECでは、スマートフォンやタブレット端末などのカメラで撮影された顔写真を分析して、浮腫(むくみ)の程度を推定する技術の開発に取り組んでいます。浮腫は、腎臓や心臓、肝臓などの不調や病気によって起こり、顔に出やすいとされています。つまり、AIによって顔の微細な変化を観察することで、浮腫の有無や程度がわかるというのです。
同社では、顔の画像から心拍数や酸素飽和度を測定する技術の開発も進めているといいます。近年では、オンライン診療が徐々に広まってきていますが、対面の診察から得られる身体的な情報が限定的だという問題が指摘されています。顔の画像から健康の情報を得られるようになれば、オンライン診療の可能性を広げていくことにつながるかもしれません。
もうひとつ、ユニークなのが、顔の映像から脳の健康状態示すBHQを推定する技術です。BHQとは、「Brain Healthcare Quotient」の頭文字をとったもので、日本語では「脳健康指数」と訳すことができます。このBHQは、内閣府が旗を振る『Impactプログラム』の中で開発された脳の健康管理指数で、脳のMRI画像をAI解析して、同性同年齢と比較した脳年齢を出すことができます。
そして、パナソニックホールディングスでは、一般的に「認知症患者の表情は乏しくなる傾向がある」といわれていることから、「認知症」と「表情を作る能力」との間に何らかの相関関係があるのではとの仮説を立てデータを検証。実際に、MRI計測による数値と独自アルゴリズムの解析結果に一定の相関があることを確認しました。この結果を受けて開発した「推定BHQ計測器」では、モニターに表示される喜怒哀楽の表情を被験者がまねることで、約1分という短時間で実年齢から推定されるBHQ値を明らかにするほか、計測した推定BHQ値の差や、推定した脳の健康状態を高・平均・低の3段階で表示します。BHQは、知能指数IQのように脳の健康状態を数値化することができるため、それに応じた食事や運動の指導など、脳の健康を守るために最適な方法を検討する際に役立つと考えられます。
医療分野で活用が進められるAIですが、訓練データに基づいて学習するため未知のパターンや変異に対応するのが難しく、誤診や誤検出が発生する可能性があります。また、多くのAIはその判断プロセスがブラックボックスであり、示された結果の根拠がわからないなどの問題点も指摘されています。
しかしながら、顔認証システムを応用したAI画像診断は、診断精度の向上や、診断から治療開始までの期間の短縮、医師の負担軽減などメリットは多く、医療の質を高めていくことは間違いありません。これからも、さらなる発展に期待しましょう。