頼りない長男に、どこまで相続財産を渡すか

きょうだいでの不動産の共有は避けるべきだと述べたばかりですが、場合によっては、きょうだいでもあえて共有にするというケースがまれにあります。

今でも相続全体の約6割が本家相続だと述べましたが、とくに多くの不動産を持つ地方の地主さんには、その傾向が強く残っています。そこで、長男のなかには、親が亡くなれば当然、自分のところに財産がすべて転がり込んでくると決めつけている人も多くいます。

それだけならまだいいのですが、そんな長男につけ込んで、怪しい友だちの取り巻きがいると大変です。

狭い町だと、「あそこにいるのは、農家の大地主の長男だよ」と誰もが知っているので、たかってくる人がいるのです。悪い人間にいわれるがままに、土地をだまし取られるのではないかと、きょうだいは気が気ではありません。

そうなると、長男だからといって跡を継がせるのはいかがなものか、という意見が出てきます。一方で長男は、なんで自分が長男なのに相続させないんだと怒って、これが大モメの原因になります。

解決策は、もちろん長男にゼロというわけにもいかず、ほどほどに配分することになります。ほかのきょうだいよりも多めではありますが、普通の本家相続ほどは多すぎないように、というのが一般的でしょうか。

そのほかに、きょうだいの考えにもよりますが、最終手段として、あえて土地を共有にするという手があります。

「きょうだいの共有は絶対にやってはいけないのでは?」

確かに一般的な相続ではそうです。共有にしてしまうと、全員の意思を統一しないと売ることができず、扱いにくくなってしまうからです。

しかし、このような「頼りない長男」の場合では、そのデメリットがメリットになりえます。つまり、長男が誰かにそそのかされて、勝手に処分できないようにするわけです。

ただし、気をつけなくてはいけないのは、共有不動産のうち、1人の持分だけを買い取るという業者があることです。そうした怪しい業者に売ってしまうと、きょうだいと業者による共有という形になり、かなり面倒なことになってしまいます。

実際に、「どのみち売るから、それまで2人で共有にしよう」としたものの、1人がお金に困って、そうした業者に安く売ってしまったという話もあります。残された1人も、そのまま持っていても自由にできず、結局2人とも損をしてしまったといいます。やはり、よほどのことがない限り、不動産の共有は避けるべきでしょう。

天野 隆/税理士
税理士法人レガシィ