相続税対策に有効、として書籍や雑誌で紹介されている節税テクニックがありますが、「親がよかれと思った相続税対策でも、実は子どもにとってためにならないことがよくある」と、相続専門の税理士である天野隆氏はいいます。なかでも金融機関が資産家にすすめるケースが多い「タワマン節税」は、2024年1月の法改正により規制が入ったという点も注目しておきたいところです。天野氏と税理士法人レガシィの共著『相続格差』より、相続税対策が孕む危険な「落とし穴」について詳しく見ていきましょう。
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親が「やってはいけない」相続対策
親がよかれと思った相続税対策であっても、実は子どもにとって、ためにならないことがよくあります。たとえ、それで金銭的なプラスが期待されたとしても、親子間の感情がもつれたり、子どもの自立が妨げられたりして、結果的に「相続格差」となってしまいかねません。
ここでは、書籍や雑誌でよく取り上げられる相続税対策を取り上げて、その注意点を考えてみましょう。
名義預金
名義預金とは、口座の名義だけ子ども(や孫)になっているものの、実質は親(や祖父母)が管理している預金口座のことです。子ども名義の口座に、少しずつのお金を振り込んでいけば、相続したときに相続税がかからないと考えているのでしょう。
預金の名義は子どもであっても、印鑑も通帳も親が持っている預金は「名義預金」と呼ばれ、相続税のチェックにあたって税務署は親の財産として、課税評価額に算入します。これでは節税にはなりません。
では、どうすればよいかというと、印鑑も通帳も子どもが持っていて、子どもが自由に使える口座にすればよいのです。それならば、子どもの口座として扱われて、相続税の節税になります。
と、ここまでは、多くの本に書かれています。確かに、それは間違いありません。私もお客様に、そう提案することがよくあります。でも、ちょっと待ってください。親子の「相続格差」という視点で考えてみると、いささか抵抗がありませんか。
親は将来のためを思って少しずつお金を口座に振り込んでいたとしても、印鑑とカードをもらっている子どもにしたらどうでしょう。お金を下ろして使いたくなるのは当然です。税務署には名義預金と疑われることはなくても、子どもを甘やかしてしまうことになります。それでよいのでしょうか。
親心あふれる名義預金の正しいやり方は、通帳も印鑑も母が保管して、自立のとき、もしくは重大事件のときにあげるべきというのが私の考え方です。もっとも、あげる前に親が亡くなってしまうと、明らかな名義預金になってしまうのがつらいところです。
しかし、子どもへの教育的配慮と節税と、どちらが大切なのでしょうか。印鑑もカードも渡したほうが節税にはなりますが、子どもの自立のほうが大切ではないでしょうか。これは、なかなか難しい問題です。子どもの年齢にもよるでしょうし、ムダ遣いする子か堅実な子かというタイプにもよるかもしれません。
名義保険
名義預金に似たものに、名義保険があります。親が子どもの名義で保険料を払うもので、相続税の節税になるとして提案している保険会社があります。しかし、これも名義預金と同じく、やり方によっては税務署には認められない可能性が高いと思います。
そもそも節税になるかどうかは別として、親が死んだときにもらえる生命保険を、子どもが支払っているというのは不自然な気がします。しかも、親から贈与されたお金で支払うわけです。保険会社の戦略かもしれませんが、これはよく考えてみたら異常な親子関係ではないでしょうか。
生命保険というのは、例えば働き盛りの旦那さんが急死したときに、幼い子どもを抱えた奥さんに保険金が下りて安心して暮らせるという性質のものではないでしょうか。それが、自分の親がそのうち亡くなるから、節税のために保険に入るというのは変な話だと思います。節税になっても道徳的にどうかというのが私の考えです。