絶対やってはいけない「不動産の共有」

それほどモメていない相続であっても、相続税の申告期限まで遺産分割が進まないことがあります。とくに土地の分割(分筆)が含まれていると、土地の測量や手続きに意外なほど時間がかかるものです。

そこで、「もう間に合わないから、とりあえず不動産はきょうだいで共有にしておこう!」となるケースも見かけます。不動産の共有とは、土地や建物を複数の人が共同で所有することです。しかし、不動産の共有はトラブルのもと。「きょうゆう」を「競誘」と書く人もいるぐらいです。相続に関わる専門家は、「不動産の共有は絶対にやってはいけない」と口を揃えます。

最近多いのは、母親が1人暮らしをしていた家と土地を、きょうだいで共有するケースです。「どうせ売るんだから、それまでは共有でもいいか」となるわけです。しかし、たとえ一時的な措置だとしても、共有はやめたほうがいいと私はアドバイスしています。

確かに、共有にしたままで売却すれば、売却額を2人で山分けにすればいいように思えます。それで何事もなく済むケースもありますが、往々にして売りたい時期や金額は、それぞれ異なっています。

ずるずると売らないでいるうちに、1人が経済的に苦しくなって、「早く売ろう」といい出すかもしれません。でも、ほかのきょうだいが首を縦に振らないと、売買も貸すこともできません。そこで、きょうだい間のトラブルが発生してしまうのです。

では、どうしたらよいかというと、私がおすすめしているのが代償分割という方法です。これは、誰か1人が不動産をすべて相続する代わりに、その価値をもとにした相続分を現金でほかの人に支払うという方法です。

もちろん、手元に相当の現金があれば、相続時に支払うのが理想的です。しかし、それが無理ならば、土地を売却したときに現金で払います、と遺産分割協議書に記載します。

不動産売買は決断が必要です。自分は5,000万円の価値があると思っているのに、4,000万という価格が提示されたときに、売るべきか、売るべきではないかは、非常に難しい決断になります。みんなで協議して決める話ではありません。

でも1人で相続すれば、その人の都合で、売りたい時期に売れる金額で売却できます。その金額については、ほかの人は口を出さず、自分の分け前をもらうという仕組みです。

ところで、不動産の共有は絶対にやってはいけないといいましたが、あえてやってもいい不動産の共有があるとすれば、それは親子による共有です。通常は親が先に亡くなり、自動的に不動産が子どものものになるというシナリオが見えているからです。

例えば、医院や商店などで、子どもに跡を継がせるつもりでいるものの、一気にすべて譲るのは心配だというケースです。自分が生きている間は、自分の持分も残しておいて、子どもが暴走しないようにチェックするわけです。