「別格」の美味しさを誇る、マグロの産地とは?

マグロの品質を判断するためには産地より漁法の情報の方が大事というのは先に述べた通りですが、それでも1カ所だけ、産地の名前を聞いただけで最高の品質だとわかる、例外とも言うべき漁港があります。

それは青森県の三廏です。

僕は毎年いろいろな鮨屋で数えきれないくらいのマグロを食べています。でも「凄い!」と唸るようなトップクラスのマグロに出合えるのはせいぜい年に数回くらい。そのトップクラスを改めて思い返してみると、ほとんどが三廏漁港に揚がったマグロなんです。少なくともここ3年で一番旨いと思ったのはすべて三廏です。

青森県には大間、深浦、小泊などいくつも漁港がありますが、三廏は“ダンプ流し”と呼ばれる独特の方法の一本釣りでマグロを獲ります。ダンプというのは発泡スチロール製の浮きのことで、それに釣り針をつけたテグスを巻きつけ、潮の上流からイカなどの生き餌を撒いて、寄ってきたマグロが食いつくのを待つという漁法です。

そしてマグロが食いつくと、巻き上げ機で少しずつ慎重にテグスを引き寄せます。ゆっくり時間をかけて引き寄せるのでマグロにストレスがかからず、身焼けが起きにくいのです。

もちろんそれだけではありません。三廏漁港はマグロの“手当て”にも定評があります。手当てとは下処理のことで、まず獲ったマグロのエラ下の動脈と尻尾を切る”血抜き”と、ナイロンの棒を尻尾から頭まで通す”神経抜き”をします。この2つの作業はマグロの体温を下げ、身の品質の劣化を防ぐのに役立ちます。そして“ハラ取り”と呼ばれるエラと内臓を取る作業をしてから”冷やし込み”をします。

冷やし込みはマグロの腹の中に氷を詰める作業のことで、三廏ではこれを徹底してやっています。それを特製の木箱に入れ、ぎっしり氷を詰めて豊洲市場に出荷する。だから鮮度が保たれるというわけです。

三廏のマグロを食べていつも思うのは、身がみずみずしいということ。他の産地のマグロは寝かすと水分が抜けてしまったりするのですが、三廏は1週間経っても2週間経ってもみずみずしい。だからすごく熟成に適している。僕は鮨屋から「三廏のマグロが入った」と聞くとウキウキする。そのくらい好きです。

早川 光
著述家