私たちの⾷⽣活にとって、農業はとても重要だということは多くに人が認識しているところではないでしょうか。しかし農林⽔産省の発表によると、農業従事者の平均年齢は66〜68歳前後を推移しており、⾼齢化が顕著です(令和5年農林⽔産基本データより)。新規就農者も平成27年の約6万5,000⼈に対し、令和4年は約4万5,000⼈(農業構造動態調査による)と、減少傾向にあります。⾼齢により引退する農業従事者の増加と跡継ぎ不⾜は「耕作放棄地の増加」を招き、⽥んぼや畑などの耕作地も減少を続けています。それを受け、政府は「ソサエティ5.0」を掲げ、これらの課題をテクノロジーで乗り越える「スマート農業」(アグリテック)への変⾰を呼びかけ、この窮状を回復しようと考えています。詳しくみていきましょう。
農業従事者の高齢化・跡継ぎ不足の解決に期待…IoT・ドローン・遠隔ロボットを活用した「スマート農業」の最前線 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

リアルタイムの情報を⼿元で「⾒える化」するIoT

(※写真はイメージです/PIXTA)
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「スマート農業」に早期から導⼊されたもっとも基本的な技術は「IoT」(Internet of Things)です。さまざまなモノにセンサーを取り付け、インターネットを通じてそのデータを⼿元で管理する技術です。

 

たとえば、⽔⽥や畑に温度/湿度センサーを、⽤⽔路などには⽔温/⽔位センサーを設置して、その数値をリアルタイムでスマホアプリに⼀括表⽰することで、広い耕作地を移動してみて回る⼿間と労⼒を減らすことができます。

 

ただし、これを実現するためには料⾦が安く広範囲をカバーできる通信技術が必要であり、従来の携帯電話やスマホ⽤の4G(LTE)通信では利⽤料⾦が⾼額過ぎました。

 

そこで「LPWA」(Low Power Wide Area)と呼ばれる、低速ながら耕作地全体をカバーできて、⽉額100円〜数百円程度、10年間で⼀括2,000円など、廉価で利⽤できる通信サービスが開始されました。

 

ソニーグループのLPWA「ELTRES」通信サービスを例にすると、⾒通しの良い場所なら 通信範囲は100km以上、コイン電池1個で⻑期間動作します。

AIを活⽤した農業⽤ドローンとは

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

また、農業ではドローンの活⽤も期待されています。オプティム社のAIを活⽤した農業⽤ドローンと、そのビジネスモデルはとてもユニークで⾰新的なものの1つです。

 

AI技術のもっとも有効な活⽤⽅法の1つはカメラ映像の解析と判断(推測)ですが、その技術をドローンに搭載し、耕作地の上空を⾶⾏し、⼤⾖の⽣育状態をカメラとAIで確認、病害⾍を検知したり、枯れかかっている箇所を判別したりすると、ドローンがピンポイントで農薬を散布するシステムを導⼊しました。

 

従来の耕作地全体に農薬を散布する⽅法と⽐べ、使⽤する農薬の量は1/10以下に抑えられ、農家の⽣産コストを⼤きく抑えることに成功しました。

 

さらに、このピンポイント農薬散布で栽培した⼤⾖の残留農薬を第三者調査機関によって検査したところ、残留している農薬は「不検出相当(農薬不使⽤とほぼ同じ)」との結果に。

 

それを受け、収穫した⼤⾖を農薬不使⽤相当の「スマートえだまめ」と命名して、福岡三越で通常のえだまめの約3倍の価格で販売すると、健康志向の消費者の⽀持を集め、好評のうちに完売となりました。これは2017〜2018年のことです。

 

また同社のビジネスモデルもユニークです。⼤規模な資⾦を持っている農家は多くないため、AIドローンの導⼊に効果があるとわかっていても、誰もが⾼額な投資に踏み切れる訳ではありません。

 

そこで同社はAIドローンシステムをレンタルし、「スマートえだまめ」のように付加価値を付けて販売した収穫物の利益を折半する形式で、農家に初期投資の負担がかからない仕組みを導⼊しました。

 

また、農作業の負担軽減や、農作物の収量、品質の向上などをめざす「スマート農業」推進のため、同社が旗振り役となって「スマート農業アライアンス」を立ち上げ、現在ではパートナー申込み実績数は約1,700団体に達しています。