微生物工学や分子工学の知見に基づき美味しさと栄養を両立
完全栄養食の先駆けとなったスタートアップはベースフード株式会社です。2019年に『BASE BREAD』を発売したのを皮切りに、パスタやクッキー、冷凍パスタにまで領域を広げました。
同社の分析によれば、主力の『BASE BREAD』2袋で1食に必要な栄養素約30種類の必要量をおおむね摂取できるといいます。同社の製品は全粒の小麦粉や米ぬか、昆布などの自然食品を主に使用しています。
同社では正社員の4割が研究開発(R&D)に携わっています。微生物工学や分子工学の知見を持つ社員が、日々、美味しさと栄養の両立を実現するべく、研究開発に取り組んでいるのです。
大手食品メーカーも参画する完全栄養食…2030年の市場規模は「546億円」との試算も
これまでの2社はスタートアップでしたが、総合食品メーカーとして完全栄養食に取り組んでいるのが日清食品株式会社です。同社は、国の「日本人の食事摂取基準」に基づく33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求した『完全メシ』シリーズを2022年から展開しています。
特徴は商品の豊富さです。カップ麺、カップライス、スムージー、カップスープ、冷凍食品まで合計38種類があります。
多様な商品群でおいしさと栄養バランスを両立するために、これまでの事業で培ってきた数々の技術を駆使しています。たとえば『カレーメシ』などでは、コメを炊く際に食物繊維やたんぱく質も一緒に炊き込むことで、コメ本来のおいしさを活かしつつ、栄養摂取も可能にしています。このほか、減塩や肉の加工などにも同社の独自技術が使われています。
『完全メシ』のターゲットは、栄養バランスが気になり始めた30代半ば~40代の男女ですが、ユーザー層を広げるべく、2022年には木村屋總本店と『完全メシ あんぱん』を、2023年10月には湖池屋と『完全メシ カラムーチョ ホットチリ味』を共同開発するなど、商品の多様化が進んでいます。また、健康経営を意識する企業の社員食堂向けの『完全メシ』メニューの提供にも取り組んでいます。
同社は「完全栄養食は、一般的に『栄養バランスが完全に整った食』を意味する言葉として使用されていますが、一義的な定義や明確な基準がありません。今後、この市場が拡大していくには、安全・安心で価値のあるものだということを、生活者に分かりやすく啓蒙していく必要があると考えています」と説明しています。
急速に普及している完全食ですが、富士経済の試算では、日本市場は2030年には2021年比8.5倍の546億円に達すると見込まれます。 今後も、多様なプレーヤーが参画することで、質・量とも充実するという好循環が期待されています。
<著者>
種市房子
98年から毎日新聞、同社傘下の週刊エコノミストで記者・編集者として勤務。2023年4月に独立。 毎日新聞での地方勤務は通算10年に及び、ビジネス、経済関連を中心としつつ、スポーツ、法令関連、官公庁の政策取材にも携わる。エコノミスト編集部時代は商社、半導体、電子部品、プラント産業をカバーする。