※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
バーチャル空間での「睡眠体験」とは
VR睡眠はVR空間で睡眠をとることを意味し、多くの場合、VRヘッドセット(HMD)を装着したまま眠ることになります。それにより、仲の良い友人や恋人と同じ空間で眠ることで何とも言えない幸福感に包まれたり、修学旅行のときのような高揚感に浸りながら眠りについたり……VR空間の多様な世界のなかで、毎日違う場所で眠っているような体験を楽しむことができます。
「VRChat」というソーシャルVRプラットフォームには、VR睡眠のための専用「睡眠ルーム」が存在します。これらのルームは、リラックスや睡眠のためのバーチャル空間として設計されており、不眠症や孤独を感じる人たちに人気です。見知らぬ人同士でも安全にリラックスできる環境であり、ビーチやキャンプ場、ホテルの部屋などさまざまなテーマで作られています。音楽も多様で、穏やかなビートから自然の音、静寂まで様々です。
VR睡眠の大きなメリットは、一人で自宅にいながらも、VR空間内で友人や恋人と共に眠れることです。現実世界のお泊まり会のような体験をVR空間で再現でき、時間や場所を気にする必要がありません。さらに、目覚めた時に誰かがそばにいる安心感を得られるため、一人で眠るのが寂しい人には特におすすめです。
VR睡眠は「睡眠改善」に効果があるのか
多くの研究によると、現代人の睡眠不足の一因としてスマートフォンの使用が挙げられています。スマートフォンや他の電子機器からの光は、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を抑制し、睡眠の質を低下させることが知られています。
一方で、VRをリラクゼーション手法として利用することで、睡眠を促進し、睡眠の質を向上させる可能性があります。特に、不眠症の症状を持つ10代の若者たちにおいて、VRの利用が睡眠改善に効果があることが期待されています。
SRIインターナショナルの神経科学者、マッシミリアーノ・デ・ザンボッティ博士は、VRが不眠症治療に効果を発揮する主な理由として、自分の置かれている環境をコントロールできるという感覚により、入眠に欠かせない安心感を得られること挙げています。VRはリアルな環境とのつながりを維持しつつ、安心感を提供してくれるので、この問題を解決する手段となるというのです。
ただし、VR環境でも不快な体験がある場合、リラックスして眠ることが困難になる可能性があります。たとえば睡眠ルームに入った際に、ロボットのアバターが無機質な声で話しかけてくるような状況では、リラックスしにくくなるかもしれません。VR空間での睡眠体験は、実際のリラクゼーション効果に大きく影響されるため、VRの睡眠環境を選ぶ際は慎重に行う必要があります。