近年、ITを活用して既存の産業構造を大きく変える「クロステック」が注目を集めています。こうしたなか、長年DXが進んでいなかった不動産業界も、ITの力を使って効率化を図る取り組み(=不動産テック)が進んでいます。今回は、不動産業界の現状と「3Dプリンター住宅」についてみていきましょう。
施工期間1日、500万円でマイホームが手に入る!?「不動産テック」が変えるマイホームの常識 (※写真はイメージです/PIXTA)

大幅なコスト・工期削減が叶う…「3Dプリンター住宅」の可能性

 

こうしたなか、先端技術の「3Dプリンター」を活用して作られた住宅が大きな話題を集めています。

 

「3Dプリンター住宅」は、2010年代から、米国の南カリフォルニア大学などで研究が進められ、最近では米国や北欧、オランダなどですでに実用化が始まっています。

 

コンクリートなどの原材料を運び込み、敷地に設置された巨大な3Dプリンターを使ってその場で住宅を成型していく工法のほか、工場の3Dプリンターで住宅のパーツを作り、敷地で組み立てる工法もあります。後者の場合、「プレハブ住宅」やプレキャストコンクリート(PC)建築に似ていますが、曲線など複雑な形状にも対応できるのが特徴です。

 

3Dプリンターの最大の利点は、従来の工法に比べてコストが圧倒的に安く、工期も大幅に短縮できるため、住宅価格が劇的に抑えられる点です。

 

実用化進む…3Dプリンター住宅事例

■ホームレスを救う…Framlabが手がけた「Homed」

 

米国とノルウェーに拠点を構えるベンチャー企業「Framlab」は、ニューヨークに「Homed」という3Dプリンター住宅を建設しました。

 

ニューヨークは、「摩天楼」と呼ばれる高層建築が立ち並んでいますが、低層建築とのあいだに“天空スペース”といわれるデッドスペースができており、同社はそこに目をつけました。

 

高層建築の窓のない壁面に沿って足場を組み上げ、3Dプリンターで作った六角形の住宅ユニットをハチの巣のように取り付けることで、天空スペースに居住空間を創出したというわけです。

 

ニューヨークにはホームレスが6万人以上いるといわれ、彼らの住宅問題の解決策として開発されました。

 

■セレンディクスが手掛けた球形住宅「スフィア」

 

また、日本でも、3Dプリンター住宅を手がける企業が登場しています。

 

兵庫県のセレンディクスは2019年、日本初の3Dプリンター住宅のプロジェクトをスタート。2022年3月にキャンプ場宿泊施設や別荘、災害復興住宅向けの球形住宅「スフィア」を完成させました。

 

スフィアは、3Dプリンターで出力したパーツを組み合わせることで、24時間以内に施工が完了できたとのこと。球形は表面積が小さく、材料費を抑えるのに役立つデザインだそうです。法人需要をメインに見込んでいましたが、反響が大きかったことから、同年10月からは約10㎡300万円台で、一般向けにも売り出したとのことです(商用では長野県佐久市で2023年5月、初めて竣工)。

 

さらに、同社は、慶應義塾大学SFC研究所と共同で、一般向けの3Dプリンター住宅「フジツボモデル」も開発。2023年夏に発売しました。

 

フジツボモデルは、鉄筋コンクリート造の平屋建てで約50㎡、高さは約4メートル。文字通り、海の岩場などで見られるフジツボのような形をしています。1LDKで水回りも完備し、耐火性や断熱性、耐久性などにも優れています。48時間以内の施工も可能で、販売価格はなんと500万円台とのことです。

 

まとめ

これまで、家というのは「人生でもっとも高価な買い物」というイメージが根強くありましたが、3Dプリンター住宅の普及で住宅価格が高級車1台分まで低下すれば、「定年退職まで住宅ローンに追われる」というビジネスパーソンのライフスタイルが様変わりするかもしれません。

 

日本は地震国であり、諸外国よりも建築規制が厳しいため、3Dプリンター住宅の普及が難しいとみられていましたが、先述したセレンディクスの3Dプリンター住宅は、日本の現行耐震基準もクリアしているそう。

 

また、建築関係の技術者・技能者の減少や高齢化も深刻な問題となっていますが、生産性の高い3Dプリンター住宅は、こうした問題の解決につながる可能性をも秘めています。

 

 

[プロフィール]

野澤 正毅

1967年12月生まれ。東京都出身。専門紙記者、雑誌編集者を経て、現在はビジネスや医

療・健康分野を中心に執筆活動を行っている。