近年、ITを活用して既存の産業構造を大きく変える「クロステック」が注目を集めています。こうしたなか、長年DXが進んでいなかった不動産業界も、ITの力を使って効率化を図る取り組み(=不動産テック)が進んでいます。今回は、不動産業界の現状と「3Dプリンター住宅」についてみていきましょう。
施工期間1日、500万円でマイホームが手に入る!?「不動産テック」が変えるマイホームの常識 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

“人海戦術”の不動産業界を変える「不動産テック」とは

 

近年、国内外を問わず、ITを活用してさまざまなジャンルの産業構造を刷新する「クロステック」が急速に拡大しています。

 

特に農業や医療・介護といった「労働集約型産業」と呼ばれる業種は、これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)があまり進んでいない状況にありました。

* 労働集約型産業……事業活動の大部分を人の力に頼る産業のこと。

 

不動産業界も、典型的な「DX後進業種」といっていいでしょう。現在でも人海戦術に依存するサービスを展開しているため、業務効率や生産性は低いままです。高齢化が進み、ITリテラシーも上がっていません。

 

こうしたなか、近年注目を集めているのが「不動産テック」です。不動産テックとは、「不動産×テクノロジー」の略で、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと。不動産テックが注目されているのは、現在の不動産関連ビジネスが制度疲労を起こしているからにほかなりません。

不動産業界でDXが進まなかったワケ

 

不動産業界には長年、ITの力を使わずに地域の物件情報に精通し、人脈が豊富な「街の不動産屋さん」がいたものです。しかし、労働人口が減少していくなか、そうしたベテランの不動産屋さんも高齢化しており、彼ら・彼女らが引退したあと、ビジネスをどのように継続していくのかが問題となっています。

 

1.規制が厳しい

では、なぜ不動産業界が「DX後進業種」となっているのでしょうか。その要因のひとつには、「規制の厳しさ」があります。不動産取引では、契約者を守るために規制がとりわけ厳しくなっているのです。

 

たとえば、「宅地建物取引業法」では不動産契約の際、宅地建物取引主任者が必ず口頭と書面で重要事項を説明することが義務づけられてきました。2021年からは、「オンラインによる重要事項説明(IT重説)」が本格運用されるなど規制緩和が進んでいるものの、依然として多くの規制が残っています。

 

2.秘匿性が高い

また、「情報公開が進んでいない」という不動産業界特有の問題も、DXの障壁になっています。

 

不動産に関する情報は、利益の源泉でもあることから秘匿性が高く、仲介業者に情報が偏り、不動産の所有者や買い手が情報不足に陥りやすいという「情報の非対称性(=取引の不公平性)」が指摘されてきました。

 

こうした影響から、不動産の取引履歴や維持・管理状況、リフォーム歴、成約価格といったデータベースの整備も進んでいません。「SUUMO(スーモ)」「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」「at home(アットホーム)」といった消費者向けの不動産物件サイトや「REINS(レインズ)」のような不動産取引業者向けの情報サイトはあるものの、情報共有はいまなお一部に限定されているといっていいでしょう。

 

たとえば、空き家の増加が大きな社会問題となっていますが、その原因のひとつにデータベース不足による中古物件市場の停滞があり、これを受けて国土交通省が「全国版空き家・空き地バンク」の創設を急ぎました。

 

こういった状況から、不動産テックの普及は不動産業界が生き残るうえで喫緊の課題となっています。しかし、逆にいえば、不動産テックに対するニーズは、潜在的な需要も含めると計り知れないほど大きいということがいえます。

不動産テック市場は「ブルーオーシャン」

 

しかし、コロナ禍においては、不動産業界もリモートによる営業や物件の内見などを余儀なくされ、結果的にDXの導入に拍車がかかりました。

 

株式会社矢野経済研究所の調査によると、日本の不動産テック市場は2020年度には推計6,110億円でしたが、2025年度には、その約2倍の1兆2,461億円に拡大する見込みです。なお、そのうち、BtoCが1兆0,017億円を占め、とりわけ中古物件のマッチングサービスが伸びると予測されています。

 

ニッセイ基礎研究所によると、日本の2022年の不動産投資市場規模は、推計約275兆5,000億円に達しているといいます。不動産テックは、まさに広大な「ブルーオーシャン」なのです。