AIが「自動運転EV」の製造工程で活躍
もう一つ、紹介したい事例があります。貴州省貴陽市の自動運転スタートアップのPIX(ピックス)です。
現在の主要プロダクトはROBOBUS(ロボバス)と呼ばれる小型の自動運転EV(電気自動車)です。用途に合わせて客席部分を自由にカスタマイズできるのが売りです。
小型バスだけではなく、コーヒーショップ、弁当販売店、コンビニなどさまざまな形態での活用を想定しています([画像2]参照)。
このロボバス自体も魅力的ですが、それ以上にユニークだったのがロボバスの製造工程です。工場内には海外から輸入したロボットアームや3Dプリンターがずらりと並びます([画像3])。
これらを駆使することで、生産ラインを組み替えることなく、「多品種・少量生産」が可能になるといいます。
この方式のもう一つのメリットは新規工場の立ち上げが容易だということです。一般的な工場では立ち上げ後、生産性を上げるために一定の時間が必要となりますが、PIXの方式ならば既存工場のコピーは容易なのです。
海外市場での展開を目指しているため、需要地に近い海外工場の立ち上げも検討しているとのことです。その有力な候補地が日本です。
PIXは2022年7月に日本のシステム開発会社「TIS」の出資を受けており、日本での事業展開を模索しています。日本にあわせたローカライズを実現するためにも、自動運転車の製造工場を日本に作る計画を進めているのです。
生産ライン組み替え不要・低コストでのオンデマンドな「多品種少量生産」、いずれもなかなか実現は難しいものです。自動運転の実現のみならず、車両製造の面においても野心的な課題にチャレンジしている点が印象的でした。
そして、もう一つユニークな点が、設計段階での生成AI活用です。PIXのロボバスは、スケートボードと呼ばれる底面と、用途に合わせて変更する上部とに分かれています。この上部の設計支援に生成AIを用いているといいます。
参考にする資料画像を読み込ませる、デザインの方向性について文章で指示する、といった簡単な操作を行うと、AIが大量のデザイン案を提示してきます。その候補から選択していくことで、短時間でのデザインが可能になるとのことです。
たんに外観を決めるだけではなく、3Dプリンターの出力時間を短縮するように構造を変更したり、底面にあわせてサイズを変更したりといった設計支援の機能も組み込まれているといいます。
AIと“協業”する時代が到来? 私たちの「未来の働き方」のヒント
生成AIによって私たちの働き方がどのように変化するのか。まだはっきりとした未来は見えません。今後、AIがどのように進化するのか、あるいはどこかで成長の限界を迎えるのか、正確性などの課題がクリアされるのか、などなど、先は見通せない状況です。
しかし、荒削りながらも社会実装を進める中国の取り組みからは、未来のヒントが見えています。それは、「人間とAIの協業」です。AIは短時間低コストで大量の案をアウトプットすることができます。人間は、そうした数々の案の中から良いモノを選び出し、問題がないか確認し、細部を修正してブラッシュアップしていくのです。
そうなると、私たち人間には、「0→1」でアイデアのタネを作り出す能力よりも、AIが作り出した無数の「1」の中から可能性のあるものを見つけ出す眼力が必要になりそうです。人間がAIとどのように協業していくのか、そのために人間にはどんな能力が必要なのか。頭でっかちではわからない、まずはやってみることからしか得られない未来へのヒントを、中国で垣間見た思いでした。
[プロフィール]
高口康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。「クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。