史跡以外で利用されるVR・AR
VR・ARはこれまで紹介した城の復元以外にも、活用の幅を広げています。いくつか紹介しましょう。
東日本大震災を後世に伝える「津波伝承AR」
2011年3月11日、東日本大震災で大きな被害を受けた東北3県。この地で復興支援や震災伝承などの活動を行っている「公益社団法人3.11メモリアルネットワーク」が公開しているのが、「津波伝承AR」です。
震災直後の被災地の姿を画面越しに観られる他、石巻市・東松島市・女川町を訪れると震災時にどれほどの高さの津波がきたかが分かる「浸水深AR」機能、震災当時のインタビューや被災からの教訓などを学ぶことができる「南浜・門脇ツアー」など、貴重な情報に触れることができます。かつて華々しく栄えたお城の歴史のみならず、悲しい災害の、風化させてはいけない記憶を、臨場感をもって伝えることができるのも、AR(拡張現実)の強みです。
360°動画で近代を生きる人々に出会う「VR昔旅」
VR・ARによるタイムトリップでは、風景や建物を再現した静止画のCGが一般的です。もし再現された世界の人々や動物、乗り物が動く姿が観られたら、もっと楽しいですよね。そんな夢のような体験をさせてくれるのが、関門海峡の近代遺産を紹介する「VR昔旅」です。
「VR昔旅」は門司港駅や下関英国領事館など、近代の関門海峡を象徴する6箇所のスポットをCGで再現し、YouTubeの360°動画として公開しています。動画のため、行き交う人々や人力車、発車する汽車なども再現されていて臨場感たっぷり。自宅のパソコンやスマホでも十分楽しめますが、VRゴーグルをつけたり、実際に現地で動画を再生したりすると、よりリアルな体験ができるのでおすすめです。
宇宙の始まりをARで再現! 「ビッグバンAR」
家にいながら宇宙の始まりを体験できるのが、CERN(欧州原子核研究機構)とGoogleが共同開発した「ビッグバンAR」です。
アプリを起動しスマホに手をかざすと、手のひらの上でビッグバンが起こり、原子や星の誕生を観ることができます。360°ビューの映像で、部屋全体が宇宙になったような感覚を味わえます。なお、解説や字幕は英語のみに対応しています。
まとめ
史跡のかつての姿を楽しむサービスを中心にVR(仮想現実)・AR(拡張現実)コンテンツを紹介しました。失われた歴史の闇に葬られた建築物や風景を仮想空間で再現し、当時の人々が見ていた光景を臨場感たっぷりに疑似体験できるのがVR・ARによるタイムトリップの最大の魅力です。
遺構の痛みが激しく来場者が立ち入り禁止の場所をバーチャル空間で再現したり、塗料が落ちて変色した壁画を色鮮やかに蘇らせたりするなど、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の技術は我々が観られる世界をどんどん拡張してくれます。今後はどのような進化を遂げ、私たちをどう楽しませてくれるのか、期待せずにはいられません。
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小関裕香子
企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。