米国で2021年11月に成立した予算1兆ドル規模の「インフラ投資・雇用法」。EVの充電サービス支援など、モビリティ関連の項目が盛り込まれたことで注目が集まりました。さらに、2024年に発表される最終的な規則には「ドライバーの飲酒を検知し、運転させないようにする機能の搭載を国内で販売されるすべてのクルマに義務付ける」という条項も盛り込まれる見込みです。このアルコール検知の分野で先行しているのが日本の旭化成。今回は、ドライバーの飲酒検知の必要性やアメリカと日本の現状についてみていきましょう。
“運転させてくれないクルマ”?ドライバーの飲酒を瞬時に判断する「最新技術」のいま (※写真はイメージです/PIXTA)

日本国内でNDIR方式のアルコール検知器を提案する旭化成

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

上記のように日本でも事業用車両に限られますが、アルコール検知器の義務化が広がっており、なかでも旭化成は存在感を示しています。その代表例がNDIR方式の業務用アルコール検知器です。

 

現在、国内で使用されているアルコール検知器は、主に『半導体式』と『燃料電池式』の2種類に分けられます。

 

半導体式は、比較的安価で、測定時間も短いといったメリットがある一方、キシリトールなどのアルコール以外の物質に反応する可能性があるというデメリットもあります。

 

もうひとつの燃料電池式は、半導体式に比べて検知制度に優れている反面、測定結果が出るまでにやや時間がかかり、かつ価格が若干ですが高いというデメリットがあります。

 

この2つの方式に対して、旭化成が提案しているのが『NDIR方式』を採用したアルコール検知器です。

 

NDIRとは“Non-Dispersive InfraRed”の略称で、日本語では『非分散型赤外線吸収法』と訳されます。そのメリットは、検知精度が高く、かつ高速で、使い捨てのマウスピースなどを使用せずに非接触で測定できることです。

 

高精度かつ高速、なおかつ非接触でアルコール検査ができるというのは、日本のアルコールチェック義務化範囲拡大はもとより、アメリカのインフラ投資・雇用法も見越した技術です。

 

ちなみにNDIR方式のアルコール検知器については、旭化成エレクトロニクス(AKM)グループの子会社であるセンスエアの製品となります。このように国内外において、アルコール検知技術でリードできたのは、いち早く飲酒運転という課題に気づき、センスエアを買収し、子会社化することで研究を進めた旭化成に先見の明があったと言えるでしょう。

 

旭化成は、化学メーカーという印象が強いですが、ラスベガスで今年開催されたCES 2023では通算3台目となるコンセプトカー『AKXY2』を展示。『Sustainability(持続可能なクルマづくり)』『Satisfaction(クルマの満足度向上)』『Society(社会とクルマのつながり)』という3つの“S”をコンセプトに、旭化成の素材と技術による“未来のクルマ”を提案しています。

 

旭化成の北米モビリティ担当責任者マイク・フランキー氏は、「旭化成はアメリカの自動車産業により深く関わるため、自らのポジションを変えたいと考えている。AKXY2は内装・外装部品や技術の専門性を示すものです」と語るように、今後はモビリティ分野で存在感を示していくことになるでしょう。

 

そのひとつとして、インフラ投資・雇用法に関わるアルコール検知技術があることはたしかです。

 

そう遠くない未来、クルマに乗ると自動でアルコールを検知し、飲酒運転になり危険な場合はクルマが運転をさせてくれない、そんな時代がやってくる可能性があります。そうなれば、悲惨な交通事故を未然に防ぐことができるでしょう。その未来を切り拓く、旭化成の取り組みや研究に今後も注目です。

 

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三木 宏章(合同会社コンテンツライト)

 

編集プロダクションにて、月間自動車雑誌の編集者としてキャリアをスタート。出版社に転職後、パソコン・ガジェットを中心したムックを担当。

 

出版社を退社後は、1年半にわたってバックパッカーをしながら17ヵ国を渡り歩き、帰国後はWEBコンサルティング会社でコンテンツ企画・制作・運用などを担当。その傍ら、コピーライターとしてブランディング事業などにも携わる。

 

2017年にフリーランスとして独立し、その後、編集プロダクション『合同会社コンテンツライト』を設立。自動車業界を中心に“ものづくり”に関わる多数の企業・メディアで執筆やコンテンツ支援を担当する。