2023年1月に米ニューヨークのアート集団「MSCHF」が制作を発表したのが、塩の粒よりも小さいトートバッグ。このトートバッグは、縦が657μm、横が700μm、幅が222μm(1μmは1,000分の1mm)という小ささで、仏ルイヴィトンの柄があしらわれています。バッグ自体は蛍光の緑色で、肉眼でもかろうじて確認できますが、その柄は顕微鏡を使わないと見ることはできません。このように、近年、 “ものを小さく作る技術”は劇的に進化し、さまざまな目的で活用されています。それは医療の世界でも変わりません。
「自由自在に体内を動き回って病気を治療!?」超極小技術で広がる、医療の新たな可能性 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

人間の消化管内を自由に移動することができる超小型ドローン

 

医療の世界で活用される“ものを小さく作る技術”。その代表的なものの一つが、人が飲み込むことができる大きさの超小型ドローン「PillBot」です。PillBotは、少し大きめの錠剤のような大きさで、LEDを備えた超小型カメラと推進装置がついています。超小型カメラがついた錠剤型のカプセル内視鏡は、すでに日本国内でも実用化されています。しかし、PillBotのユニークなところは、小さなスクリュープロペラを4本装備していること。Microsoft Xboxコントローラーや専用のスマートフォンアプリによって、ワイヤレスで自由自在な操作が可能なのです。

 

従来のカプセル内視鏡が、食べ物と同じように自然と消化管を移動する最中に消化管の表面を撮影しているのに対し、PillBotでは医師がリアルタイムで画像を見ながら、食道から胃、十二指腸、小腸、大腸まで、望んだとおりに動かすことができます。そのため、出血やがんのありそうな場所などをピンポイントで観察が可能です。従来の内視鏡検査のように多少の苦痛を伴ったり、麻酔で患者を眠らせたりする必要はなく、より精度の高い消化管の検査が可能となります。さらに、将来的には患者が自宅でPillBotを服用し、医師は遠く離れた病院からPillBotを操作しながら検査ができる「本格遠隔医療」の開発も進んでいます。

 

またPillBotを開発するEndiatx社は、その先にも目を向けています。それは「Pill Surgeon」と呼ばれる錠剤型外科ロボットです。Pill Surgeonは、小型カプセルに極小のロボットアームやメス、針などを装備。これらを体外からリモートコントロールすることで、消化管内の画像的な検査だけでなく、がんが疑われる場所があった時には組織の採取やポリープの切除、出血箇所の焼灼などの外科的な処置ができるようになります。

ナノテクノロジーの活用で、より効果が高く副作用が少ない治療薬をめざす

 

さらに小さい「ナノテクノロジー」を用いた医療技術の研究開発も進められています。その一つが、ドラッグデリバリーシステム(DDS)です。

 

DDSとは、医薬品の有効成分を適切な場所に、適切な量で、適切な時間だけ作用するように届ける製剤技術。治療効果を高めるほか、副作用を軽減したり、より簡単に投与できるようにしたり、投与の回数を少なくしたりと、さまざまな目的で使われます。このDDSの技術もすでに実用化されていますが、近年注目されているのが、ナノテクノロジーを活用した「ナノDDS」です。1nmは100万分の1ミリと、20μmの大きさである細胞よりもはるかに小さく、DNAとほぼ同じサイズ。そのナノレベルの大きさの物質を活用することで、これまで以上に高い治療効果と副作用の軽減が期待できます。