2020年、新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中の美術館が休館を余儀なくされました。パンデミックのなか、開発が進んだのが「バーチャルミュージアム」です。スマートフォンやPC、タブレット端末を使って、いつでも・どこからでもアート作品を楽しめるシステムです。外出が制限されるなか、自宅で美術を鑑賞できる方法を提供し、多くの人々を元気づけました。本記事ではその魅力に迫ります。
スマホで手軽に楽しむ「バーチャルミュージアム」──いつでも・どこでも美術館巡りが可能に? (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

「バーチャルミュージアム」の魅力とは?

 

[図1]
 

「バーチャルミュージアム」は、ユーザーがいつ・どこからでもアートを鑑賞できることが最大の魅力ですが、他にもバーチャルならではの利点がたくさんあります。

 

360度、細部まで作品を鑑賞できる

1つ目は、あらゆる倍率で、あらゆる角度で作品を鑑賞できる点です。美術館では作品保護のため、作品の前にガラスやアクリル板が設置されていたり、テープが張られていたりすることが多々あります。そのため作品に近づけず、「細部まできちんと見られなかった」ということも多いのではないでしょうか。

 

「バーチャルミュージアム」なら障害物なくクリアに見られるのはもちろん、拡大・縮小も自由自在なので、肉眼では見られないところまでクローズアップすることが可能です。

 

また、「バーチャルミュージアム」には360度どこからでも作品を鑑賞できる機能が備わっているものもあります。人物像の背中や、陶磁器の底面など、普段鑑賞できない角度から見られるのも魅力です。

 

自分好みの環境で、誰にも邪魔されず鑑賞できる

2つ目の利点は、自分好みの鑑賞環境をつくれる点です。美術館の多くは作品保護のため照明を暗めに設定していますが、「バーチャルミュージアム」なら、スマホの液晶画面の輝度を調整するだけで、鑑賞に適した明るさにすることができます。

 

また、大規模な美術展では混雑で人の頭しか見えなかった……なんてこともありますが、当然「バーチャルミュージアム」なら誰にも邪魔されることなく、好きな作品を心置きなく鑑賞できます。

 

日本では見られない作品も、じっくり鑑賞できる

3つ目は、海外に行かなければなかなか見られないような作品を鑑賞できる点です。これは、オンラインであれば美術館側が低コストで展覧会を開けることが理由です。

 

輸送コストのかからない「バーチャルミュージアム」

美術館の展覧会は、大きく分けて「常設展」と「特別展」があります。常設展はその美術館の所蔵品を並べた展示のことであり、特別展はあるテーマに沿ってさまざまな美術館の作品を展示した期間限定の展覧会のことです。特別展では海外の美術館から作品を借りることもあり、美術ファンから常に注目されています。

 

しかし、他館から作品を借りるには美術作品専門の運送業者を手配する必要があり、輸送コストがかかります。そこで各美術館が提携し、「バーチャルミュージアム」でオンライン特別展を開催したことがありました。コストの問題で借りることができなかった作品の展示も可能となり、またテーマがニッチで集客が見込めないような特別展も、オンラインで気軽に開催できるようになりました。

 

さらに、コロナ禍には海外からの作品レンタルが不可能になったため、フランスのルーヴル美術館など大手美術館が「バーチャルミュージアム」を開設しました。作品の高精細画像が公開され、日本にいながら海外の美術作品をじっくり鑑賞できるようになりました。