極めてリターンの少ない預貯金、もしくは、リスクの大きい株式投資――。日本の個人の資産運用は、この両極端な商品に二分され、その間を埋める運用商品がほとんどないというのが実情だ。そこに着目したのが、三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社。これらの中間に位置する「ちょうどいい」投資対象として提案するのが不動産を対象とした「デジタル証券」という新しいスタイルの金融商品。果たしてどのようなものか。代表取締役社長の上野貴司氏に話を聞いた。

デジタル技術でコスト削減、利回り向上に期待

三井物産デジタル・アセットマネジメントでは、現在まで4本の〈不動産のデジタル証券〉を発行してきた。これまでは証券会社経由での販売だったが、この5月からはいよいよ「ALTERNA(オルタナ)」のブランド名で直接販売に乗り出す。J-REITといった既存の不動産投資商品との違いや特徴とは?

 

―――まず、デジタル証券の仕組みを用いた最大のメリットを教えてください。

 

上野社長(以下、敬称略)私たちは「デジタル証券」と称しているのですが、昨今では株式の株券、投資信託の受益証券もすべて「電子化」は実現されています。

 

三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社代表取締役社長 上野貴司氏
三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社代表取締役社長 上野貴司氏

かつては、「有価証券」といえば紙の本券があり、それを証券会社などの販売金融機関に保護預かりしてもらい、代わりに預かり証を発行するという方法で管理されていたのですが、いまはすべてペーパーレスになり、電子的に管理されるようになりました。

 

私たちが提供する不動産のデジタル証券も、もちろんペーパーレスなのですが、暗号資産などでも知られているブロックチェーン技術を利用して電子的に発行し、現所有者の権利、所有者移転などの記録を、すべてブロックチェーン上で管理していきます。

 

弊社の「デジタル証券」は、ブロックチェーン技術に加えて、AI(人工知能)やchatGPTのような大規模言語モデルなどを組み合わせて、コストの削減に努めています。不動産を投資対象とするアセットマネジメントビジネスは、金融業務でありながら労働集約的な側面があり、人件費が最大のコストになっています。こうした業務に、様々な最新のデジタル技術を用いることでコストが削減され、運用利回りの向上が期待できるようになります。

 

加えて、デジタル技術を用いることで運用の透明性や即時性、正確性が担保されるようになり、投資家の皆様にとっての「体験」がデジタル化されていきます。このように、権利移転のみならず、投資体験そのものをデジタル化した金融商品を、弊社では「デジタル証券」と呼んでいます。

 

4つのデジタル証券を発行、現状の利回りは年3-4%程度

―――不動産投資商品といえばJ-REITが真っ先に浮かんできます。不動産のデジタル証券との違いはなんでしょう?

 

上野:J-REITは、ひとつのファンドに複数の物件が組み入れられています。いわば「幕の内弁当」のようなものです。

 

しかし、投資家のニーズは千差万別です。なかには分散された不動産ポートフォリオではなく、個別の物件に投資したいという方もいらっしゃいます。私たちが提供する不動産のデジタル証券は、個別の物件をデジタル証券化したものですから、個別の物件に投資したいというニーズには最適です。

 

これまで物流施設である「神戸六甲アイランドDC」「草津温泉 湯宿季の庭・お宿木の葉」、その他に2つのレジデンスという計4つのデジタル証券を発行し、証券会社を通じて販売してきました。現在のところ、利回りは年3-4%程度で運用されています。預貯金のような確定利回りではないので、状況次第で利回りも変動しますが、ほぼ狙い通りの水準を分配させて頂いています。

 

また1証券につき1物件でも、複数のデジタル証券を保有して、自分で分散をはかっている方もいらっしゃるようです。プロ向けの私募ファンドとは異なり、今後は1口10万円からと小口化されるので、分散投資にも向いています。

 

J-REITの場合は最初から複数物件を組み入れているため、自動的に分散ができる反面、分かりにくさにつながる面があります。その点、1証券につき1物件に絞り込んでいることの分かりやすさも定評です。投資対象を絞り込む分、クオリティの高い物件のみを証券化しています。

 

運用期間中の換金は、販売金融機関による買取等で対応

―――運用期間、あるいは運用期間中に換金したい場合、どうすればよいのでしょう?

 

上野:物件によりますが、運用期間は5-7年程度です。またデジタル証券の持ち分を換金したい場合は、J-REITのように流通市場がないので、証券会社など販売金融機関に買い取ってもらうか、あるいは買いたいという投資家を販売金融機関が見つけて媒介してもらうという方法が取られています。なお、デジタル証券が発行された後、1年程度、換金できない期間を設けています。

 

なお、収益に対する税金ですが、ALTERNAで提供するデジタル証券は雑所得ではなく、申告分離課税の対象となるので、上場株式などと同様、運用収益に対する税率は20.315%で済みます。ALTERNAは特定口座のみの扱いで、口座開設時点で「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」を選択できるのですが、源泉徴収ありを選べば、納税も完結させることが可能です。

 

※ 現在の税法を前提として、受益証券発行信託を使用した証券化スキームが特定受益証券発行信託の要件を充足しており、その上で受益者の選択により申告分離課税の対象となります。

 

将来は、船舶・航空機など「不動産以外」の選択肢も

―――現在は不動産を中心にしてデジタル証券化を進めていますが、将来的にはほかの資産も対象になる可能性はあるのでしょうか?

 

「将来的には船や航空機などの動産にも範囲を広げていきたいと思います」
「将来的には船や航空機などの動産にも範囲を広げていきたいと思います」

上野:さまざまな応用が可能だと考えています。私自身、不動産ビジネスの経験が長いので、軌道に乗せるまでは不動産を中心にしたデジタル証券化を進めていますが、将来的には船や航空機などの動産や、再生可能エネルギーなどのインフラ資産にも範囲を広げていきたいと思います。

 

航空機はパンデミックの影響で大きく値崩れしてしまいましたが、アフターコロナで将来的に航空機需要が回復してくれば、収益力を回復してくるでしょうし、世界人口が増えるほど貨物輸送船などの需要は高まるので、船も有望な投資先といえます。

 

船も航空機も、個人が投資対象とするには金額面で荷が重くなりますが、デジタル証券化のスキームを活用すれば、不動産のデジタル証券と同様、10万円程度の少額資金でも投資できるようになります。

 

個人の資産運用は、元本安全性の高い預貯金か、リスクの高い株式かの両極端になっていて、その間を埋める運用商品がほとんどないというのが現状です。私たちは、その間を埋めるための投資対象を組成し、個人の皆様にご提供できればと考えています。

 

 

 

上野 貴司

三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

 

2000年三井物産入社。日本初の物流REIT「日本ロジスティクスファンド投資法人」を05年にIPOさせ、初代CFOに就任。12年よりシリコンバレー投資子会社にてスタートアップ投資に従事。16年に2社目の総合型REIT「投資法人みらい」をCFOとして立上げ、IPOに成功。20年より現職。京都大学大学院工学研究科工学修士、一橋大学大学院国際企業戦略研究科MBA in Finance。リーマンショック時の経験から構想していた個人向け金融サービス会社を具現化すべく当社を設立しました。「投資はもっと、わかりやすく、簡単にできる」の信念のもと、デジタル証券を活用した新しい資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ)」の立ち上げに邁進しています。

 

■三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社について

 

弊社は不動産・インフラなど実物資産を裏付けとしたデジタル証券ファンドの組成、運用、販売を一気通貫で展開する日本初のデジタルネイティブなアセットマネジメント会社です。デジタル証券で資産運用できるサービス「ALTERNA」の提供を通じて、将来のために安定した資産形成をしたい方に、新たな選択肢を提供していきます。

 

本社 :東京都中央区日本橋堀留町1丁目9−8 人形町PREX 4階

代表者:代表取締役社長 上野 貴司

設立:2020年4月1日

資本金:30億円(資本準備金を含む)

業登録:金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第3277号

宅地建物取引業:東京都知事(1)第105400号

加入協会:日本証券業協会/一般社団法人 第二種金融商品取引業協会/一般社団法人 日本投資顧問業協会

コーポレートサイト:https://corp.mitsui-x.com/

ALTERNAサービスサイト:https://alterna-z.com/

 

<ご注意事項>

金融商品取引契約締結に係るリスクについて

金融商品には、関連する特殊リスクがあり、国内外の政治・経済・金融情勢、為替相場、株式相場、商品相場、金利水準等の市場情勢、発行体等の信用力、その他指標とされた原資産の変動により、多額の損失が生じる恐れ(元本欠損リスク)又は元本を超過する損失が生じる恐れ(元本超過損リスク)があります。

三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社(以下、MDM)が取り扱う金融商品は、元本が保証されているものではなく、原資産たる不動産等の価額、金利水準、為替相場等の市況の変動によって、価値が変動することがあり、投資元本の損失が生じるおそれがあります。
このため、MDMが取り扱う金融商品に投資又は出資されたお客さまには、期待されていた配当を得られないリスクや当初元本を超過する損失が発生し、当初元本を毀損するリスクがございます。

MDMが取り扱う金融商品は、その特性及び対象とする原資産(不動産等)の特性から、その金融商品ごとに、リスクの内容や程度が異なりますので、金融商品取引契約のお申し込みにあたっては契約締結前交付書面、目論見書(補完書面を含みます。)等をよくお読みいただいたうえ、金融商品取引契約締結の判断はご自身でされるようお願いします。

 

金融商品取引契約締結に係る費用について

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取材・構成:鈴木雅光(有限会社JOYnt)