海外ではどんどんデジタルバンク化が進行しています。それに対して日本のデジタルバンクは遅れているともいわれています。日本では実際、どれくらいデジタルバンクは広がっていて、今後どのような展開となっていくのでしょうか?「日本のネット銀行のいまとこれから」について、専門家が解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
日本でも意外と進んでいる!「地銀のデジタルバンキング」 (※写真はイメージです/PIXTA)

“地銀らしくない”ナショナルブランド

「みんなの銀行」を語るに当たり、ふくおかフィナンシャルグループが子会社として設立した「iBankマーケティング」の功績を外すことはできません。社員10名でスタート、その後「ウォレットプラス」という銀行取引アプリの開発に成功しました。

 

このアプリは、口座開設から経常的な銀行取引をスマホ上で完結できるもので、筆者も「みんなの銀行」で口座開設した際は5分もかからずに口座開設が完了し驚きました。同社はその後、このアプリをオープンなものとしたため、同アプリを導入する地銀が相次ぎました。

 

iBankと聞いて真っ先に頭に浮かぶのが、ポーランドのmBankです。フィンテックについて学ぶ機会があれば、デジタルバンクの先駆けとして登場する世界的に有名な銀行です。ポーランドの中堅銀行BREがデジタルバンクとして2000年に立ち上げた子銀行ですが、利便性の高さから人気を博し、今や親銀行もmBankというブランドで統一してしまったほどです。

 

そのスローガンは「信号待ちの間で完結する取引」で、ワンタップ、ツータップで取引を完結するストレスフリーバンキングをアプリに取り込むことに成功しました。また、GPS機能活用により、「銀行顧客がいま歩いている場所の近くにあるレストランやショップのクーポンなどが届く仕組み」は、「地域密着エコシステム」といえましょう。

 

ウォレットプラスも、操作デザインを簡略化しストレスフリーを体現したほか、個人間の送金を携帯電話番号やメールアドレスなどを媒介として手数料なしで行えるなど、利便性向上と取引負荷解消を両立したものといえましょう。福岡銀行と歴史的につながりが深いとは言えない銀行も、スマホバンキング対応としてこのアプリを採用していることを見ても、その機能への高い評価がうかがい知れます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

日本のデジタルバンクの先進的事例として取り上げられる「みんなの銀行」が開業したのは、2021年5月です。1年で40万口座を超え、2023年3月末には80万口座という高い目標を設定しています。邦銀では初めてグーグルクラウドを採用し、オンプレミス(自社で情報システムを運用・管理すること)にありがちなランニングコストの高さや機能見直しに伴うシステム負荷の大きさを軽減し、アジャイルなシステム設計を確保する構造を作り上げました。

 

個別サービスについても、銀行としては珍しい、プレミアム会員サービス向けのサブスクを展開し、少額不足金を補てんする貸越サービス(Cover)などもサブスクの対象としています。発足して間もないため現時点での経営は赤字ですが、良い意味で“地銀らしくない”ナショナルブランドに育ちつつあることは確かです。

先進的な地銀の共通点

先進的な地銀は、「システムに対する経営者の意識が高い」という点で共通しており、北國も福岡もこれに当てはまります。同時に、人々の価値観の変化や金融サービスの位置づけの変容などを俯瞰し、従来型のシステムからゼロベースの見直しを行える胆力を備えていることも、これらの地銀の特徴です。

 

そして、もうひとつ重要な共通点が、システム運営にありがちな障害などのリスクについて、正しい理解をしているということでしょう。銀行は監督当局の要請もあり、「システム障害の発生はゼロにしなければならない」という完ぺき主義に囚われてしまう傾向にあります。

 

しかし、障害は確率論的に発生するものです。大切なのは、障害をゼロにすることに過大なコストを費やすのではなく、障害発生時の対応策(コンティンジェンシープラン)をしっかりと設けておくことだと思います。

 

デジタライゼーションは、新しいトライアルなしには成功しません。日本も他先進国に遅れを取っているとはいえ、上記で述べたように前に進もうと熱心に努力している企業は、メガバンクのみならず地銀の中にも存在します。身近な金融サービスがどのような進化を遂げるのか、今後の展開に期待したいです。

 

 

野崎 浩成

東洋大学 国際学部教授博士(政策研究、千葉商科大学)。1986年慶應義塾大学経済学部卒。1991年エール大学経営大学院修了。埼玉銀行、エービーエヌアムロ証券会社、HSBC証券会社、シティグループ証券、京都文教大学を経て2017年4月より現職。

シティグループ証券時代に日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。
著書に『銀行』『バーゼルIIIは日本の金融機関をどう変えるか―グローバル金融制度 改革の本質』『消える地銀、生き残る地銀』(いずれも日本経済新聞出版)、『銀行の罪と罰』(蒼天社出版)、『グローバル金融の苦悩と挑戦』(金融財政事情研究会)など。