人工衛星を利用したネットサービスも普及
スペーステックでは米国が世界をリードしていて、有力なスペーステック企業も成長しています。最も名高いのは、「スペースX(正式な社名はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)」でしょう。
米国の電気自動車メーカー大手、テスラの創業者であるイーロン・マスク氏が2002年に創設。民間企業として初めて、宇宙船による地球周回飛行と帰還、国際宇宙ステーションとのドッキングに成功しました。スペースシャトルの後継機となる有人飛行用宇宙船の開発についてNASA(米国航空宇宙局)と契約し、2020年には民間初の有人宇宙飛行も実現させました。宇宙旅行ビジネスを初めて軌道に乗せたのも同社で、前澤友作氏もスペースXの利用客でした。
それだけではありません。スペースXは、スペーステックによってインターネットビジネスにも革新をもたらそうとしています。それが、新しい衛星通信サービスである「スターリンク」です。
スターリンクは、高度約3万6,000kmという従来型の通信衛星と違って、高度約550kmという低い軌道を通信衛星が回り、しかも現在、3,400基以上という膨大な数の通信衛星が打ち上げられているそうです。それらの通信衛星によって地球上の広域をカバーできるので、幅広いエリアで大容量高速通信を提供できるわけです。
日本でも、2022年10月にKDDIがスペースXと提携し、スターリンクのサービスが開始されました。
たとえば、光ファイバーの敷設が難しい離島や山間部でも、スターリンク対応のアンテナがあれば、インターネットが利用できるようになります。KDDIのスマートフォンのユーザーは、将来的に人工衛星を介してインターネットにアクセスできる可能性があるそうです。
他方、2020年には米国アマゾンも衛星インターネット接続サービスを行う事業計画「プロジェクト・カイパー」を始動させました。2029年までに約3,200基の通信衛星を打ち上げ、地球上のあらゆるエリアで、大容量高速通信を実現することを目標としています。
衛星通信ビジネスは、スターリンクのライバルの参入によって、今後もヒートアップしそうです。
日本でもスペーステック企業が台頭
世界的な金融グループである米国モルガン・スタンレーによれば、宇宙ビジネス全体の市場規模は2017年には37兆円でしたが、2040年までには約3倍の100兆円に拡大すると予想されています。スペーステックは、それだけのビジネスチャンスを秘めているのです。
米国などに比べて出遅れ気味の日本ですが、政府も「宇宙基本計画」を打ち出し、2017年時点で約1.2兆円だった宇宙産業全体の市場規模を、2030年代の早期に2.4兆円まで倍増させる目標を掲げています。
そうしたなか、日本でもスペーステックのベンチャー企業が育っています。前述したスペースデブリ回収事業を行う「アストロスケール」のほか、北海道を本拠とする「インターステラテクノロジズ」が注目されています。
「インターステラテクノロジズ」の事業構想が誕生したのは1997年。“ホリエモン”の愛称で知られる、起業家の堀江貴文氏が出資したことでも有名です。超小型人工衛星の打ち上げに対応し、低コストの小型液体燃料宇宙ロケットの開発に力を入れてきました。最近では、宇宙大量輸送のニーズが高まっていることを受け、大型宇宙ロケットの開発にも乗り出しました。
日本のベンチャーが、宇宙ビジネスでも活躍するようになったのは頼もしい限りです。日本が「自立した宇宙利用大国」となれるように、期待したいところです。
野澤 正毅
1967年12月生まれ。東京都出身。専門紙記者、雑誌編集者を経て、現在、ビジネスや医療・健康分野を中心に執筆活動を行っている。