Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft、5社の頭文字をとって「GAFAM」と呼ばれる世界的ビックテック企業。これら企業が銀行業務や決済、セキュリティに関わる分野にまで台頭してきたら、どうなるのでしょうか。また、それらが日本で開業されるとしたら──専門家が詳しく解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
GAFAM銀行は静かに生活の一部に。初開業は「米国ではなく日本」? (※写真はイメージです/PIXTA)

デジタル先進国・シンガポール随一の銀行が照らし出す、GAFAM銀行の未来

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

シンガポールにも日本と同じように3大銀行がありますが、そのなかで世界の注目を集めてきたのがDBSという銀行です。DBSはDevelopment Bank of Singaporeの略で、名前が示す通りシンガポールの発展を担う産業金融の中核的役割を果たしてきました。日本でいえば、みずほ銀行の前身の一つである日本興業銀行のようなイメージです。個人単位ではなく、法人や国家プロジェクトなどの比重が高かったこともあり、個人取引の評判はさっぱりでした。

 

そのなかで、革新的な構造改革が起きます。2000年代以降、デジタライゼーションをテコとした業務改革、そしてマーケティングの転換が図られました。スモールサクセスを積み重ね、有能なエンジニアを徐々に獲得しながら、ベンチマーキング(経営戦略上の競争相手の定義づけ)をGAFAMとした「ガンダルフ戦略」を推進し、DBSの姿は激変しました。

 

ガンダルフとは、Google、Amazon、Netflix、DBS、Apple、LinkedIn、Facebookの頭文字をとったものです。結果として2016年、金融の専門誌であるユーロマネーによりベスト・デジタルバンクに選出されました。

 

そのDBSが示唆する要素として、エンベデッド・ファイナンスというものがあります。エンベッド(Embed)は、埋め込むという意味ですが、金融サービスの提供を外部事業者のウェブサイトやアプリに埋め込むという意味です。DBSは、オープンAPI(アプリケーション・インターフェイス)という、提携事業者に銀行システム接続を開放する仕組みを通じて、DBSのサービスを受けられる機会を爆発的に増やしました。

 

ここに“哲学”があります。ユーザーが日常生活を送るスペースに自らをエンベッド(埋め込み)し、自らの存在をインビジブル(隠すこと)にすることで、ユーザーが“無意識”にDBSのサービスを受ける状況を演出したのです。

 

金融サービスは、エルメスやレクサスなどのようなブランドと異なり、同質性が高いのが特徴です。このため、自らの存在を誇示して「DBSを使ってください」と訴求するのではなく、「存在をあえて消す」ことで、ユーザーがシームレスにDBSのサービスに流れ込んでくるというものです。

 

GAFAM銀行はこのDBSのイメージに近いと思います。しかし、一つ大きな違いは、ユーザーの日常生活に直結する巨大なプラットフォームを擁する銀行であるため、APIなどで他の事業体と提携するというよりは、「自分の土俵で勝負できる」ということです。GAFAM銀行は、気づかぬうちに私たちユーザーの生活に静か染み込んでいく可能性が高いでしょう。

 

 

野崎浩成

東洋大学 国際学部教授博士(政策研究、千葉商科大学)。1986年慶應義塾大学経済学部卒。1991年エール大学経営大学院修了。埼玉銀行、エービーエヌアムロ証券会社、HSBC証券会社、シティグループ証券、京都文教大学を経て2017年4月より現職。

 

シティグループ証券時代に日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。

 

著書に『銀行』『バーゼルIIIは日本の金融機関をどう変えるか―グローバル金融制度 改革の本質』『消える地銀、生き残る地銀』(いずれも日本経済新聞出版)、『銀行の罪と罰』(蒼天社出版)、『グローバル金融の苦悩と挑戦』(金融財政事情研究会)など。