ところで、日本のキャッシュレスは遅れているというが、実際のところはどうなのだろうか? 以下のチャートは、2020年の1年間における個人の決済に占めるキャッシュレスの割合を示したものだ。お隣の国、韓国・中国を筆頭に、諸外国との差が大きいことは一目瞭然となっている。
キャッシュレス決済比率の国際比較(2020年)
だが、この結果は「日本はデジタル後進国だから」という単純な一言では片づけられない。日本に住んでいる限りは、現金払いをベースに生活してもほぼストレスフリーだ。いまだ多くの人が現金を持ち歩いていることについては、治安のよさが寄与していることは確かだろう。
しかし、それ以上に銀行の存在が大きい。日本では、子供のころからお年玉などの受け皿として銀行口座を保有することが珍しくなく、口座開設のハードルは諸外国に比べても低い。また、世界の銀行支店数 国際比較統計・ランキング(2021年度 国際通貨基金(IMF)調べ)によると、日本の銀行支店数は37,247店で、177ヵ国中で4位という結果になっている。つまり、日本における「銀行口座の持ちやすさと、物理的なアクセスのしやすさ」がキャッシュレス普及阻害の原因にもなっているのだ。
しかし、時代は変化を遂げている。キャッシュレス推進とマイナンバーカード普及という一石二鳥の施策としての「マイナポイント」を待つことなく、キャッシュレス決済の快適さを実感し始めているのは、今や若い世代だけに限らない。
デジタル払い選択は少数派か
そうはいってもデジタル給与払いが解禁とともに主流を占めることにはならないだろう。それは企業にとっても従業員にとっても、あえて選択するメリットが現状のところ希薄だからだ。
企業にとっては、特に経営資源に余裕のない中小企業等にとって、新しいシステムを備える初期投資の負担が生じるなど、導入に慎重にならざるをえない。中小企業ばかりでなく、大企業にとっても「労働協約」、つまり労働者側の代表者との合意を取りつけるなどの手間がかかる。
従業員のなかでも、銀行口座を有していない事情を抱えた人は稀だ。〇〇ペイや電子マネーなどは、銀行口座に紐づけされていることも多いため、オートチャージ機能を備えてさえいれば、あえてデジタル払いを選択するメリットはない。
加えて、制度上の最大のボトルネックが「100万円の壁」だ。PayPayなどの決済事業者は、資金決済法上の「第二種資金移動業者」に位置付けられており、送金等の上限が100万円に設定されている。そもそもこの法律の前提として、第二種資金移動業者が提供するアカウントは「送金や資金決済が目的」とされているため、銀行預金のような資金滞留の状態は本質的に想定していない。このため、100万円を超えた部分は従来通りの銀行口座への振込になる。
こうした状況を考えると、法改正そのものが必要だったのか、と疑問に感じる人も多いだろう。しかし、いま我々が見ている風景は10年を待たずして激変するかもしれない。そのヒントを与えてくれるのが、「ペイロールカード」だ。