本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。我々の生活に比較的身近なテクノロジーについての紹介・説明記事や、よりよい体験をもたらすためにテクノロジーを用いているモノやサービスについての情報を発信しています。第1回目は、2023年4月から給与払いの選択肢として新たに加わる「ペイ払い」について、解禁後浸透していくのか、またその理由を、日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位の実績を持つ東洋大学国際学部教授の野崎浩成氏に解説いただきます。
2023年解禁の「デジタル給与払い」。「電子マネー」で給料をもらうスタイルは浸透するか? (※写真はイメージです/PIXTA)

実はポテンシャルが大きい「ペイロールカード」

 

現状、外資系企業に勤務していない限りは、「ペイロール」という言葉は馴染みがないかもしれない。これは給与支払い関連の事務やシステムを総称するもので、簡単に「給与計算システム」と訳すのが分かりやすいだろう。ペイロールカードは、アメリカで普及が進んでいる給与受け取りのためのカードで、ビザカードやマスターカードなどの国際ブランドが数多く手がけている。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

アメリカでは、銀行口座の残高が一定額を下回ると「口座維持手数料」がかかることが一般的だ。このため、外国人労働者ばかりでなく、若い世代にとっても銀行口座保有のハードルは日本より高い。さらに、クレジットカードなどは保有の審査が日本よりも厳しい。大学に通うために奨学金ローンなどを組んでいるため「クレジットスコア」が足りずに、カードを持つことができない若者も多い。

 

ペイロールカードは、銀行口座の代わりのアカウントであり、給与を受け取り「デビットカード」のようなイメージで消費に活用できる。既に述べたような国際ブランドのカード会社が運営元であり、国内外問わずカード払い可能な場所であれば問題なく使用できる。

 

私は、このペイロールカードがより汎用性の高いかたちで活用可能となれば、一気に給与払いのデジタル化が進むのではないかと考えている。例えば、高金利を要求することで悪名が高くなってしまった「給与前払いビジネス」では、従来モデルのように企業側で準備金を確保することなく運用できる設計となれば、金利負担もなく給料日を待たずして資金を手に入れることができる。

 

小銭の取り扱いなどに手数料をかける動きを考えれば、将来的に銀行が口座維持手数料を設ける可能性も想定しなければならないだろう。現時点では特段目立ったメリットの見えないデジタル払いも、将来的には主役に躍り出る可能性について否定はできないのだ。

 

 

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野崎浩成

東洋大学 国際学部教授博士(政策研究、千葉商科大学)。1986年慶應義塾大学経済学部卒。1991年エール大学経営大学院修了。埼玉銀行、エービーエヌアムロ証券会社、HSBC証券会社、シティグループ証券、京都文教大学を経て2017年4月より現職。

 

シティグループ証券時代に日経ヴェリタス人気アナリストランキング(銀行部門)2005年~2015年1位。

 

著書に『銀行』『バーゼルIIIは日本の金融機関をどう変えるか―グローバル金融制度 改革の本質』『消える地銀、生き残る地銀』(いずれも日本経済新聞出版)、『銀行の罪と罰』(蒼天社出版)、『グローバル金融の苦悩と挑戦』(金融財政事情研究会)など。