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近年、世間では「暦年税贈与の廃止」や「贈与税と相続税の一体化」といった話題に議論が沸き起こっている。中には「今すぐ動かなければ!」と駆け込み贈与を考える人も多いのではないだろうか。ただ、安易な対策は要注意だ。今こそ改めて基本に立ち返り、「生前対策」について考えてみたい。年間1,700件以上の相続事例を請け負う「ベンチャーサポート相続税理士法人」より、古尾谷裕昭税理士ならびに三ツ本純税理士が解説する。(取材・文=小倉千明)

「暦年贈与が廃止される」というウワサの根拠

 

生前対策を始めようとしたときにまず考えるのが、「暦年贈与」ではないだろうか。贈与税には、年間110万円以下であれば非課税となる基礎控除枠がある。これを活用して贈与を毎年継続する「暦年贈与」で生前贈与を行うことが可能だからだ。

 

令和4年度税制改正大綱により沸き起こっている懸念の一つに、「贈与税と相続税の一体化」がある。これは、贈与税の対象だったものに対して贈与時には税金を課さず、相続時にまとめて課税するようになるということ。そうなると、これまで生前対策として行われていた暦年贈与ができなくなり、暦年贈与は事実上の廃止となる。実際のところ、令和4年度税制改正大綱はどのような背景から起こっているのだろうか?

 

「見解は様々ありますが、その背景には日本が世界各国の税制に倣おうとしているという見方が私達にはあります。アメリカでは相続税と贈与税が一体化していますし、ドイツやフランスも課税割合自体は低いとはいえ、同様に一体化しています。そして相続税と贈与税が一体化するという流れになれば、暦年贈与の廃止も考えられるでしょう」

 

■贈与税と相続税の一体化は「一旦見送り」でも…残る“懸念事項”

令和4年度の税制改正大綱の時点では、相続税と贈与税の税制改正については具体的に示されなかった。今回は見送りとなったが、時間をかけて段階的に制度改正する可能性も十分に考えられる。

 

「具体的な懸念事項としては、相続税の『持ち戻し期間の延長』です。持ち戻しとは、相続が発生した時から3年以内に行われた生前贈与が相続税の課税対象となるルールのこと。『持ち戻し』の対象となってしまうと、相続税を減らすために相続発生直前に行っていた生前贈与も節税になりません。この持ち戻し期間が、現在フランスでは15年。それに類して日本でも、暦年贈与の相続税への加算の期間が3年間から10年間に拡大される可能性があります。

 

相続税対策は富裕層に限らず、一般層にも広がっています。また現在、相続税対策を始める方は60代、70代が多数ですが、暦年贈与の廃止や持ち戻し期間の延長が決まり、持ち戻し期間が10年に広がると、相続税対策のスタート時期も早まる可能性があります」

生前対策の基本、「不動産の活用」は今後も使えるのか

 

不動産を保有することで相続財産の評価額を減額し、相続税を抑えるという相続税対策は以前から行われている。中でも、実勢価格と評価額の乖離が大きな財産となる、タワーマンション(以降、タワマン)を利用した相続税対策も多く取られている。しかしこの手法にも危険信号が点滅しているという。

 

「不動産保有に関しては、最高裁の路線価否認判決がビッグニュースでしょうか。2022年4月に行われたあるタワマンの裁判で、“行き過ぎた相続税対策”が指摘され、相続人は約3億円もの追徴課税を受けることになりました。

 

被相続人は90歳を超えてから多額の融資を受けて、首都圏のタワマン2軒を購入しました(それぞれの購入価格は約8億3,700円と約5億5,000万円)。借入金は、相続税の計算をする際には相続財産に含まれるため、課税対象額を大きく減額する効果を持ちます。そして、購入から3年ほど後に被相続人は亡くなり、そのタワマンを資産として引き継いだ相続人は、納税額をゼロとする申告を行った…という内容です。

 

最高裁判所の判断の背景には、タワマンを使った相続税対策の“行き過ぎ”があります。事例を受けて、評価額の計算方法に問題がある場合は、不動産鑑定士などを利用するように国税庁が指示することが認められました。このように、金額的な影響が大きい場合や高額な資産に対して納税額がゼロになる場合などは、指示を受ける可能性が大いにあります」

今から取れる生前対策は?

 

では今から取れる生前対策には、具体的にどんな方法があるのだろうか?

 

生命保険の非課税枠は、もっと活用されてもいいと思います。『500万円×法定相続人の数』で算出できる金額で、その上限内であれば保険金という形で相続人は非課税で相続できます。富裕層でなくても、どなたでも取りやすい対策の一つかもしれません。

 

知らない方もまだ多いですし、『得になる』とこちらから提案してもやらない方もいらっしゃいます。保険に悪いイメージを根強く持っている方も一定数いらっしゃいます。また、効果としてどうなるのかの認識がしにくいので、手が出にくい場合もあるかもしれません。我々が提案する場合は、税金がどの程度安くなるのか具体的な数値を叩いてシミュレーションをします。可視化されることで、“なるほど”と納得していただける場合が多いですね。

 

孫などがいる場合、『教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置』という制度もおすすめです。30歳未満の受贈者(孫など)が教育資金の贈与を受けた場合、受贈者1人あたり最大1,500万円までが非課税となります。銀行で教育資金口座に係る契約がやや面倒なのと制度の適用が2023年3月末までという部分はデメリットに挙げられやすいですが、事前に一括して贈与を受けられるメリットもあります」

相続対策は「相続税を減らすこと」だけに限らない

 

様々な生前対策が考えられる中、どの方法を選択すればいいのか判断が難しい場合もありそうだ。

 

「生前対策というと、税金を減らすことばかりを考えがちですが、資産をより増やすことも生前贈与の一つです。資産を今より1億円から2億円に増やせば、納税資金を賄えるよね、という前向きな考え方もあります。投資運用などもいい方法でしょう。資産が1億円、2億円といった場合は、資産に占める不動産の割合が高くなるでしょうし、20億円、30億円ともなると、対策方法にもより広がりが出てきます。ケースバイケースです」

 

やはりまだまだ、生きている間に生前対策に取り組む割合は少なく、当事者が亡くなってから相続問題に向き合う人が多いのも現状だ。事前に対策しておけば起こり得なかった問題も多いという。やはり必要なのは複合的な視点と知識だ。早めに取り組むことで、対策の選択肢も広がるだろう。自己判断の生前対策を一度、専門税理士に状況を気軽に相談してみるのもいいかもしれない。

 

次回は、あらかじめ押さえておくべき相続発生後の手続きや対策について見ていこう。

 

 

古尾谷 裕昭

ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)

代表税理士

 

三ツ本 純

ベンチャーサポート相続税理士法人 税理士