下請法等の改正により、企業を取り巻くファイナンスの環境が激変している。親事業者、そして下請事業者は今、どのような対応を求められているのか? Tranzaxの小倉隆志社長にお話を伺った。第6回目のテーマは、「資金調達環境を激変させるサプライチェーン・ファイナンスの魅力」である。

短期プラが基準の「一括ファクタリングサービス」

――電子記録債権を利用して、御社はどんなサービスを提供しているのですか?

 

小倉 当社では電子記録債権をベースに、サプライチェーン・ファイナンスの構築を支援しています。購買、生産、販売といった一連の企業活動のなかで必要な資金をタイムリーに、かつ低コストで提供できる仕組み作りを行っているわけです。

 

具体的に言うと、ある親事業者と複数の下請事業者があるとします。まずは、その親事業者専用のSPC(特定目的会社)を当社が設立する。下請事業者が製品を親事業者に納入して発生した売掛債権を、このSPCが専門に買い取ることで下請事業者の資金繰りを円滑にするわけです。

 

この際、SPCは親事業者の余裕資金に加えて、親事業者のクレジットで金融機関から資金調達します。その利率はTIBOR+0.2~0.5%程度。そのため、下請事業者が売掛債権を持ち込んだ際の割引金利を大幅に引き下げることが可能なのです。繰り返しになりますが、手形の場合は、持ち込んだ企業のクレジットに合わせて短期プライムレート+αの割引率が適用されます。割引金利は、2~3%にはなることも多い。しかし、当社が提供するサプライチェーン・ファイナンスの仕組みを利用すれば、現在の割引金利より0.7%~1.2%程度に下げることが可能です。

 

――サプライチェーン・ファイナンスには銀行が提供している「一括ファクタリングサービス」もありますが、それらとの違いはどこにあるのですか?

 

小倉 一括ファクタリングは銀行が親事業者と下請事業者の間に立って、電子記録債権の割引や期日決済のサービスを提供するというもの。手形の発行事務が軽減できて、印紙代もかからないという電子記録債権のメリットに加えて、親事業者の信用力に基づいて割引金利が決定されるので、手形と比較して大幅に金利負担を抑えることが可能です。

 

しかし、銀行がサービスとして提供しているため、割引率は1.475%という短期プライムレートを基準にしているのがほとんどです。一方で、当社のサプライチェーン・ファイナンスの仕組みのなかでは、短期プライムレートに縛られることなく、親事業者の信用力だけで金利が決まるので、下請業者の割引金利をさらに下げられます。また、親事業者の支払代行を行なうことで、親事業者の事務コストを低減することが可能になります。

 

さらに一歩進んだファイナンス手段の構築も

――電子記録債権のメリットをフルに生かしたファイナンス手段というわけですね。

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 いや、電子記録債権は単なるインフラにすぎません。これにより、事務コストが安くなるという程度のものです。当社が提供するサプライチェーン・ファイナンスは、そのインフラを利用して、制度上の歪みを解消しているところがポイントなのです。

 

何度もお話ししているように、大手企業が銀行借り入れるときの基準金利はTIBORで、中小企業は短期プライムレートです。この2つの金利には1%以上の差がある。本来であれば、中小企業に対してもTIBORにクレジットを加味した利率を設定すればいいものを、なぜか基準金利からして“断絶”してしまっている。言ってしまえば、この金利差が銀行の超過利潤だったわけです。

 

実は、こうした歪みはほかにもあります。例えば、銀行の為替手数料。日本円をドルに交換する際には、仲値(その日の基準レート)に1円をプラスした買い値となるのが一般的です。ところが、FX(外国為替証拠金)取引のスプレッド(買い値と売り値の差)は大半が1銭未満。銀行だけこんなに高い手数料を設定しているだけでも歪んでいるのに、この1円という手数料自体、戦後間もない1ドル=360円の固定相場制の時代に設定した手数料を今も維持しているからなのです。直近の為替レートは1ドル=112円ですから、事実上、手数料は360円時代から3倍になっています。

 

――そのような歪みを突いたサービスであれば、御社のようなベンチャーも入り込む余地がありそうですね。

 

小倉 法人企業統計を見ると、売掛金は残高ベースで約200兆円ありますが、でんさいネットの電子記録債権残高は4兆4,000億円ほどしかありません。メガバンクが運営する電子記録債権を合算しても、売掛金残高の7%程度でしょうか。しかし、過去を見れば、紙の手形は1990年には売掛金の6割の残高がありました。つまり、まだまだ電子記録債権化の余地は大きい。メガバンクの一括ファクタリングサービスよりもコスト負担の小さいサプライチェーン・ファイナンスのニーズは大きいと考えています。

 

実はさらに、一歩進んだファイナンス手段の構築も進めています。これが実現すれば、親事業者と下請事業者を取り巻く資金調達環境は劇的に変わるでしょう。

 

――それはどんなものですか?

 

小倉 「POファイナンス(Purchase Order Finance)」といって、発注書を電子記録債権にしてしまい、さらに現金化のスピードを早める仕組みです。現状では、親事業者が製品を受け取った段階で電子記録債権での支払いが発生しますが、それを発注段階にまで早める。現在、本スキームの実施に向けて、金融庁、法務省、中小企業庁、信用保証協会連合会などと話を詰めているところです。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年3月1日に収録したものです。