下請法等の改正により、企業を取り巻くファイナンスの環境が激変している。親事業者、そして下請事業者は今、どのような対応を求められているのか? Tranzaxの小倉隆志社長にお話を伺った。第4回目のテーマは、「手形を利用するデメリット」である。

手形はそもそも「手作業の塊」!?

――手形のデメリットはどのような点になりますか?

 

小倉 同じく振り出し側から考えていくと、大企業の場合、振り出すコストが“それなり”に高いと考えられます。前回もお話したとおり、日本を代表する企業であれば、銀行から0.2~0.3%程度で資金を借り入れることも可能です。しかし、手形を振り出す際には、専用の手形帳に金額を印字し、その金額に合わせて印紙を貼らなくてはなりません。額面10億円の手形の場合は、20万円の印紙代がかかります。

 

 

わずか0.02%のコストと思うかもしれませんが、そのほかにも手形帳や印紙を保管しておくとための金庫なども必要になってくる。20万円の印紙は20枚の1万円札ほどかさばらないので、盗まれたら大変。日々、印紙の在庫がいくらあるか台帳につけて管理しなくてはならないのです。その管理を担う専門の担当者も必要になります。大きな企業になると何人も配置しているケースがあります。

 

手形は銀行に持ち込んで割り引くことができますが、支払い期日に振り出した企業に直接持ち込んで現金を受け取ることもできる。だから、担当者が必要になってくるのです。さらに、手形専用の印刷機を置いている企業も少なくありません。10億円分の手形を振り出す場合でも、受け取る側から「2億円分を4枚と1億円分を2枚にわけてくれ」と言われたりします。小口にしたほうが、“回し手形”に使いやすいわけです。

 

そのような要望を聞いて、手作業で手形を1枚、1枚刷り出して印紙を貼り、印鑑を押すので、目に見えない手間とコストがかかる。おまけに、その手形を渡す方法を考えないといけない。何百万円、何千万円、何億円という手形を郵送するわけにもいきませんからね。要は、手形は「手作業の塊」なんです。

 

――メリットに比べて、デメリットがずいぶん多いですね……。

 

小倉 もう1つ、大きなデメリットがあります。「不渡り制度」というのがありまして、期日に手形が落ちない(決済されない)場合には振出人にペナルティが課されるのです。2回不渡りになると、銀行取引が停止になって、口座にある資金を動かせず、自動的に破産手続きに移行してしまうわけです。

 

借り入れの場合は、銀行と交渉して、返済を先延ばしにしたりすることもできますが、手形はそうはいかない。もちろん、支払先と交渉して、期日を改めた新たな手形を再度振り出して支払いをさらに先延ばしにする“手形ジャンプ”という方法もありますが、こんなことをすれば二度と取引先は手形を受け取ってくれないでしょう。借り入れの際に発生する金利負担を追わずに支払いを先延ばしにできるというメリットがある分、大きなペナルティを課せられるリスクが発生するわけです。

なぜか「持ち込んだ人のクレジット」で割引率が決まる

――では、受け取る側のデメリットは?

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 1つ目は、先ほど述べたとおり、銀行に持ち込んで割り引いてもらう際のコストが高いこと。振出人のクレジットではなく、持ち込んだ人のクレジットで割引金利が決まりがちなので、結局、手形を担保に資金を借り入れる、担保融資のようになってしまうわけです。

 

2つ目は振出人と同じように、管理コストがかかること。現金と同等の価値を持つものですから、受け取った手形は金庫で厳重に管理しなくてはなりません。万が一、受け取った手形を紛失して、銀行に事故届を提出する前に“善意の第三者”の手に渡った場合には、手形上の権利は第三者に移ってしまうのです。

 

このほかにも、どの手形がいつ支払期日を迎えるか、台帳に記入して管理する必要があります。なぜなら、手形は期日を迎えたら、自動的に現金が振り込まれるという類のものではないのです。受取人は手形を取引銀行に持ち込み、その銀行が手形交換所に持ち込み、その手形を交付した銀行が受領することで、ようやく決済される。

 

交換所の場所によりけりですが、手形を銀行窓口に持ち込んでから、現金が自分の口座に振り込まれるまでに最低2日かかります。だから、月末期日の手形をもらっても、月末にはお金にならないのです。このわずかな時差は、月末に支払いが集中する事業者にとって大きなデメリットとなるのです。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年3月1日に収録したものです。