下請法等の改正により、企業を取り巻くファイナンスの環境が激変している。親事業者、そして下請事業者は今、どのような対応を求められているのか? Tranzaxの小倉隆志社長に聞いた。第3回目のテーマは、「振り出す側と受け取る側――手形を利用するそれぞれのメリット」である。

「振り出す側」には2つのメリットが存在

――前回、手形割引は中小企業ほどコストがかかるとおっしゃいましたが、改めて手形を利用するメリットとデメリットはどこにあると考えていますか?

 

小倉 振り出す側から考えれば、支払いを先延ばしにできることと、借り入れのような金利負担が発生しないという2つのメリットがあります。昨年12月の公正取引委員会からの要請により、銀行で手形を割り引いてもらう際に発生する金利は、振出人となる親事業者が負担することが望ましいとされたので、後者のメリットは薄れつつありますが、振り出す際には社債を発行するのと異なり、金利は発生しません。

 

一方で、手形を受け取る側には、その手形をそのまま孫請事業者に現金の代わりに渡せるというメリットがあります。信用力のある振出人の手形には、現金と同様の価値があります。このように“回し手形”にすれば、金利負担を負うこともないわけです。また、銀行などで割り引けば現金を調達できるという点も、メリットと言えます。

 

すべての「裏書人」に対しても支払い請求が可能

――それは手形ならではですね。

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 あとは、振出人が潰れても、現金化できる可能性がある、というのも受け取る側のメリットと言えるかもしれません。回し手形をするときには、手形の裏面に譲渡する相手(被裏書人)の名前を書いて、譲渡する人(裏書人)が署名・捺印する必要があります。その裏面には「表記金額を下記被裏書人またはその指図人へお支払下さい」という“裏書文句”が印刷されているのが一般的です。

 

こうして、手形は譲渡されるたびに裏書きされ、権利者が変わっていくのですが、その権利者は振出人が表記された金額を支払えなかった場合には、すべての裏書人に対して支払いを請求する権利を有するのです。誰に請求してもいい。だから、振出人の信用が乏しくても、裏書人をチェックして、十分な信用力を有する人、ないしは企業の名前が記載されていれば、安心して受け取ることができる。

 

余談になりますが、この点は銀行にとってもメリットがあります。手形は譲渡された履歴がすべて残るので、どの会社がどれだけ信用力のある会社と取引があるのか、裏書きを見ればチェックすることができるのです。企業のモニタリングにも活用できる。信用力の乏しい裏書人ばかりであれば、手形の割引金利を高くし、逆に信用力の高い裏書人が記載されていれば、割引金利を低くするというケースも多く見られます。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年3月1日に収録したものです。