今回は、有料老人ホーム建設という不動産ビジネスの「落とし穴」について見ていきます。※本連載は、株式会社K'sコーポレーション代表取締役の樋爪克好氏、さいたま新都心税理士法人代表社員で、公認会計士/税理士の河合明弘氏、弁護士の武藤洋善氏の共同著書、『大家さんのための空き部屋対策はこれで万全!!』(三和書籍)から一部を抜粋し、大家業を営むなかで向き合わねばならない様々な問題と、その解決策を紹介します。

利便性は重視されないため、建設そのものは容易だが…

有料老人ホームの建設が流行ったことがあります。必要な施設の供給ですから、流行もののようにあつかうのは気が引けますが、大家業という立場で見ると、その建設ラッシュは、流行のようでした。特別養護老人ホームの不足する状態から、需要を見越して次々と建設されたものでした。

 

私が聞いているのは埼玉県下の事情ですが、たとえば入居時に二〇〇〇万円の入所金が必要といった具合に、必要な費用も高額なものでしたが、たちまち入所者で埋まりました。公的なサービスで対処できる限界をはるかに超える需要が、たしかにあったからでしょう。

 

これらの有料老人ホーム建設のための用地に求められるハードルは、率直に言ってあまり高いものではありませんでした。

 

入所者は所内で生活し、通勤も通学もしません。その意味で交通の利便性は重視されません。広さだけは必要ですが、通常の集合住宅に求められる条件の多くが、あまり必要とされなかったので、周囲になにもないような閑静で地価の安いところに続々と建設されました。

 

これらのなかには、事業者が自分で土地を購入して施設を建て、開所するといったものもありましたが、施設の所有と運営は別というケースもたくさんありました。流行ったのは、後者のほうです。

 

まず業者が適地を所有する地主さんを勧誘します。例によって、地主さんが銀行でローンを組んで建物を建て、それを事業者にリースするという方式です。これはサブリースの一種と言えます。

 

貸す相手が有料老人ホームなら、部屋が埋まらなくて契約の料金を見直すということもなさそうです。しかも、もともと住宅用途としては、使い道のあまりない土地を活用できるのです。

供給の飽和、人手不足から運営困難になるケースも

よいビジネスだと思われたのですが、ここにも落とし穴がありました。

 

あまりに次々と建設されたため、じきに供給が飽和状態となり、各施設間で入所者を奪い合うような事態となったのです。加えて労働環境にくらべて賃金が低いことから、業界全体で人手不足が深刻となり、運営困難になるケースも出てきました。

 

老人施設や医療関連の機関であっても、ペイしなければ事業として成立しません。とうとう撤退する施設がでてきました。

 

契約上解約できない期間は設定されていますが、通常数十年にわたってしばる契約はされません。契約にもよりますが、一〇年、二〇年と経てば、自由に解約できるケースが大半です。

 

施設の運営業者は、その期間を過ぎてからなら、撤退すれば、それで済みます。でも、地主さんにとって、問題はそれからです。

 

末永く利用されると思って建てた鉄筋コンクリートの建物のローンは、まだまだ支払い期間が残っています。次の借り手が現れれば問題ないのでしょうが、そうもいかないでしょう。供給過剰が原因で撤退するのですから、別の有料老人ホームが借りてくれるはずがありません。

 

では、ほかに転用できるかというと、それも難しいのです。もともと施設自体が目的に合わせて作られているうえに、立地条件もよくないのですから。

 

かくして廃墟と化した夢の跡がそこかしこに・・・。先々を見通すことが、いかに難しいか、つくづく考えさせられる話です。

 

ちなみに、二〇一五年現在、有料老人ホームの倒産件数は、五年前の二倍にのぼっているそうです(読売新聞・二〇一五年一〇月三日)。倒産となると契約もなにもなくなってしまいます。その場合、建設から日が浅いところでも、なんの保障もなく退去となるケースも出てくることでしょう。

大家さんのための空き部屋対策はこれで万全!!

大家さんのための空き部屋対策はこれで万全!!

樋爪 克好,河合 明弘,武藤 洋善

三和書籍

本書には、筆者が父から家業を引き継いだときに直面した出来事や、その後、家業を手がけるなかで向き合わねばならなかった多くの問題と、その解決策が示されています。大家さんとひとくちに言っても、経営の規模、目的から現状…

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